2018 Fiscal Year Annual Research Report
細菌による膜小胞分泌機構の解明と膜小胞を基盤とした異種タンパク質生産への応用
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18J13035
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
横山 文秋 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 膜小胞 / メンブレンベシクル |
Outline of Annual Research Achievements |
Shewanella sp. HM13 が分泌する膜小胞に含まれるタンパク質を網羅的に同定し、それらのうち膜小胞生産との関連が考えられたタンパク質 HM1275 に着目して研究を進めた。本タンパク質はバイオフィルム分散関連センサータンパク質 BdlA と相同性を有していた。HM1275 は生育環境中の小分子の結合によるシグナル伝達を担うことが推定されたため、生育環境に影響される膜小胞生産について解析した。HM1275 が認識する生育環境中のシグナル分子を同定するために、96 ウェルプレートを用いて異なる培養条件における本菌の膜小胞生産量を一度に定量できるマルチドットブロッティング法を構築した。アミノ酸組成を改変した培地を用いたマルチドットブロッティング解析結果から、HM1275 は培地中の特定のアミノ酸分子を認識し、膜小胞生産制御に関与していると考えられた。この制御機構において、HM1275 は BdlA 同様にサイクリックジグアニル酸が関与する経路を利用していることが推測される。また、本タンパク質が膜小胞上に存在することから、本菌は外環境認識を担うタンパク質を他の細胞へ輸送することで集団行動を制御している可能性も考えられる。 サイクリックジグアニル酸が関与する膜小胞分泌機構については報告がなく、本研究によって新奇の膜小胞分泌機構が見出される可能性がある。さらに、バイオフィルム分散に関わるタンパク質の膜小胞を用いた輸送によるバイオフィルム形成制御の一端を示しうる研究であり、微生物学のみならず医学や産業分野にもインパクトを与える成果が期待される。 また、本菌に対してトランスポゾンによるランダム変異を導入することに成功している。このランダム変異による膜小胞生産量の変化を、上記のマルチドットブロッティングによって解析することで膜小胞生産に関与する遺伝子の同定を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度に実施した研究により、膜小胞に含まれるいくつかのタンパク質を同定し、その中から膜小胞生産制御に関与すると考えられるタンパク質を見出している。このタンパク質はセンサータンパク質のホモログであることが推定され、認識するシグナル分子について同定が進んでいる。しかしながら、本タンパク質が関与する膜小胞生産制御機構の分子レベルでの解明には至っていない。理由として、ナノサイズの膜小胞は定量が難しくその方法が確立されていないため、膜小胞生産量の評価法を定めることに予想を超える時間を要したことが挙げられる。このために、当該のタンパク質をコードする遺伝子を欠損させたときに生じる膜小胞生産への影響を評価することに苦戦した。本研究では様々な方法で膜小胞の定量を試み、それぞれの評価方法の測定条件や妥当性検討に当初の計画を超える時間を費やした。現在では、評価方法をいくつかに絞り、膜小胞生産に対する影響を評価できている。 また、異なる培地条件下における膜小胞生産性をスクリーニングする系の構築にも取り組んだ。この実験系の構築や条件検討に当初の計画を超える時間を要した。そのため、当初は昨年度中に計画していたランダム変異を用いた膜小胞生産関与遺伝子の同定を予定通りに進めることができなかった。しかし、現在ではランダム変異を用いたスクリーニング系の構築も完了しており、昨年度からスクリーニングを開始している。今年度中に膜小胞生産に関与する遺伝子を同定し、その遺伝子がコードするタンパク質が関与する膜小胞生産機構を明らかにする。 これらのように昨年度は当初予期しなかったことにより予定した通りに研究が進まないこともあった。しかし、現在ではそれらの問題は解決され、計画していた研究を進めることができている。したがって、本年度はさらなる研究の発展が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
膜小胞生産制御に関わると考えられるセンサータンパク質ホモログを同定し、本タンパク質が認識すると推定される分子を絞り込んでいる。このシグナル分子の存在下で発現が変動する遺伝子を RNA-seq を用いて網羅的に解析することで、膜小胞生産制御に関与する遺伝子を見出す。関与が考えられる遺伝子の欠損株を作製し、シグナル分子存在下および非存在下の膜小胞生産量を解析する。欠損によって膜小胞生産量が変化する場合、その遺伝子は本膜小胞生産制御機構に関与している可能性が高いと考えられる。関与が示唆されたタンパク質についてデーターベースを用いて局在性や既知タンパク質との相同性を推定する。推定された情報に基づいて生化学実験を行うことで、本センサータンパク質が関わる膜小胞生産制御機構について分子レベルの知見を得る。 また、このセンサータンパク質ホモログはバイオフィルム分散に関与するタンパク質と相同性を有している。このバイオフィルム分散タンパク質はサイクリックジグアニル酸合成経路を利用することが示されている。そこで、本センサータンパク質による膜小胞生産制御機構にもサイクリックジグアニル酸が関与していると推定し、シグナル分子の有無によるサイクリックジグアニル酸濃度の変化を HPLC を用いて定量する。これにより、本センサータンパク質が関わるシグナリングとサイクリックジグアニル酸の関係性を明らかにする。 さらに、Shewanella sp. HM13 にトランスポゾンを用いたランダム変異を導入することに成功しており、変異株の膜小胞生産量をスクリーニングしている。変異によって膜小胞生産が増減する場合、当該の遺伝子がコードするタンパク質は本菌の膜小胞生産に関与すると考え、遺伝子欠損株を作製する。この欠損株についてデータベースや生化学実験によって解析することで、本菌の膜小胞生産機構を明らかにする。
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