2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18J13177
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Research Institution | Kyoto University |
Research Fellow |
大関 綾 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 近世文学 / 合巻 / 草稿本 / 校閲 / 長編化 |
Outline of Annual Research Achievements |
採用第1年度目は自身の研究テーマである「長編合巻の「嗣作」について」に関連する資料である、合巻『青陽石庁礎』、『児雷也豪傑譚』、『其由縁鄙俤』、『今様伊勢物語』草稿本の書誌調査および翻刻、さらに刊行本との異同を調査し、そこから判明したことを京都大学国文学会での発表、『京都大学國文學論叢』への論文投稿と発展させた。 主に一筆庵主人が執筆していた作品で別の作者が「嗣作」した作品を調査対象としたため、他に一筆庵主人によって終始作られた、滑稽本『夢輔譚』についても草稿本と刊行本との異同を確認した。興味深いことに、滑稽本『夢輔譚』、合巻『其由縁鄙俤』、『今様伊勢物語』には異同が少なく、合巻『児雷也豪傑譚』、『青陽石庁礎』には多くの異同が確認できた。先行研究『天理図書館善本叢書 近世小説稿本集』や「江戸戯作文庫」で指摘されている異同は一部を除き前者と同じくらいであるため、これは特筆すべき事象である。 また、調査によって明らかになったのは、作者が一筆庵主人とされている合巻『青陽石庁礎』二・三編および『児雷也豪傑譚』十編は一筆庵主人ではない別の人物によって「校閲」されているのではないか、ということである。これは合巻『今様伊勢物語』が本来は一筆庵主人の作であるのに、戯作者として名を馳せていた笠亭仙果が「校閲」していたこと、そしてその出板過程が合巻『青陽石庁礎』と同じであることが草稿本から分かったため、明らかとなった。 他に合巻『児雷也豪傑譚』の長編化について考えるために、本作の典拠となった読本『自来也説話』について、自来也の一代記もの読本とのしての視点から自来也の描かれ方に注目し、読本『自来也説話』自体も長編化していたことが後の合巻へも影響を与えていることを『読本研究新集』に投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
採用第1年度は、長編合巻において特筆すべき作者のうちの一人である、柳下亭種員の作品を蒐集、調査した。細かな内容検討がまだ出来ておらず、今後の課題である。蒐集・調査の中で、種員作の作品のうち早印本にみられる「出板広告」を確認すると、出板時には種員作となっているものが、広告段階では前の作者の名前で広告が出ているものが確認できた。出版社(板元)の出板における戦略的な問題もこれらの広告から明らかに出来るのでは無いかと考えており、このことを解決しなければ長編合巻の「嗣作」に対して総合的な検討ができたとは考えにくい。また、研究実績に記した内容は「嗣作」に関係はしているものの、個々の事象に焦点をあてており、「嗣作」の全体像がつかめているとは言いがたい。蒐集・調査を行った柳下亭種員作品と共に内容検討をじっくり行う必要がある。 さらに、当初は合巻だけでなく、歌舞伎との関係なども視野にいれた研究を行う予定であったが、基になる合巻作品の検討が不十分であったため、他分野との関連性については未だ検討が出来ていない。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、柳下亭種員が関わった長編合巻作品を中心に蒐集・調査、内容検討を行う。また、当時の合巻の特色でもあるが、種員の作品には中世の人物を扱ったものが散見される。一方で種員は吉原遊郭とも関係があるようである。種員と関わりがあったとされる狂歌師(吉原狂歌壇)、国学者たちとの交流が種員の作品にどのように影響を与えているのかに関しても検討の余地があると考える。 なかでも、最初の作者が柳下亭種員で狂歌師の三亭春馬が嗣作した『童謡妙妙車』に注目したい。本作は明治19年に「善悪両輪妙々車」という題で河竹黙阿弥によって歌舞伎化された作品である。柳下亭種員と三亭春馬は種員が戯作者として名を馳せる前から狂歌壇内で交友のあったことが分かっており、二人の関係性を戯作の面から考える唯一の作品といえる。その作品が日を経て歌舞伎となった場合、どういった趣向が主に取られたのか、それぞれの作者の特徴に注目して考察していきたい。 また、合巻『青陽石庁礎』について採用第1年度に検討したが、本作についても河竹黙阿弥の代表作「青砥稿花紅彩画」との関係性をうかがわせる箇所がある。「青砥稿花紅彩画」は歌川豊国(三世)の浮世絵を基に作られたことが公表されているが、『青陽石庁礎』三編に豊国(三世)によって描かれた口絵の人物と「青砥稿花紅彩画」の登場人物が少なからず一致しているためである。他に『白縫譚』や『児雷也豪傑譚』の歌舞伎化を行っている黙阿弥が種員が関わった合巻作品を歌舞伎化している可能性はあり、長編合巻の嗣作の問題に、歌舞伎化の問題を絡めた研究へ発展することを想定している。
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Research Products
(3 results)