2018 Fiscal Year Annual Research Report
微視的理論に基づいた超伝導電流に働くローレンツ力の効果の検証
Project/Area Number |
18J13241
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
河野 航 北海道大学, 理学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 超伝導・超流動 / 渦糸 / ボーズ・アインシュタイン凝縮 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、誘起される渦糸や、その渦糸の運動状態(フラックスフロー状態)において、超伝導電流に働くローレンツ力の効果を微視的な観点から明らかにすることを目的としている。申請者は、「上部臨界磁場近傍であれば、ローレンツ力が支配的に働く」と考え、研究を行ってきた。しかし、「高磁場領域においても超伝導ギャップ勾配による力が超伝導電流に働く」ということが、昨年の日本物理学会にて明らかになった。従って「ローレンツ力」以外の効果を定量的に明らかにし、結果を比較する必要がある。このような事情で、申請者は、当研究に関する研究成果の報告をするに至っていない。 ボーズ・アインシュタイン凝縮体(BEC)や、「電子対のBEC」を起源とする超伝導体では、巨視的な粒子数揺らぎに由来して粒子が持つ位相が揃い、「超流動性」や「渦糸状態」など、様々な巨視的量子現象が発現する。超伝導の基底状態を記述する BCS波動関数は、粒子数の固有状態とならないため,この波動関数に基づく総粒子数の揺らぎの期待値は有限値をとり、 総粒子数は不確定となる。したがって、BCS 理論は総粒子数の揺らぎが許される「開いた系」を念頭に置いた理論である。その一方で、粒子数が確定している「閉じた系」に対する超伝導基底状態の位相は不確定であり、「現実的な系における真の状態は位相を揃えるのか」という点に関しては未だに論争がある。このような背景のもと、申請者らは、多体効果による揺らぎを含む変分波動関数を構成した(J. Phys. Soc. Jpn. 87. 104703, J. Phys. Soc. Jpn. 87. 124004)。特に、申請者らは、粒子数が固定されている超伝導状態でも、多体効果として内在するクーパー対の生成・崩壊過程が「クーパー対の粒子数ゆらぎ」を誘起することを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
超伝導電流に働くローレンツ力の効果を微視的な観点から明らかにするために、申請者はローレンツ力の寄与が支配的である上部臨界磁場近傍に着目して研究を行ってきた。実際に、準古典理論を用いて、s波・d波超伝導体において、超伝導電流に働くローレンツ力が誘起するホール電場を、高磁場領域で計算を行ってきた。しかしながら、寄与が小さいと考えていた、渦糸状態における超伝導ギャップの勾配に由来する寄与が、渦糸帯電効果に対して、高磁場領域でも効くことが明らかになった(日本物理学会 2018年 第73回 秋季大会 同志社大学 9pA332-8)。これは、超伝導ギャップの勾配に由来する寄与のうち、ゲージ不変な微分演算子に含まれるベクトルポテンシャルの効果が、高磁場領域で増強されるためである。これは、申請者が当初考慮できていなかった新たな効果であり、かつ物理的にも妥当なものである。それに加え、超伝導ギャップの勾配に由来する力はローレンツ力に対して逆符号に作用し、ローレンツ力を抑制する効果であることが示唆されている。従って、上部臨界磁場近傍での輸送現象においても、超伝導ギャップ勾配による効果を慎重に吟味する必要があり、「ローレンツ力」と「ギャップの勾配に由来する力」のどちらが支配的なのかを明らかにする必要がでてきてきた。
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Strategy for Future Research Activity |
申請者は、現在行っている計画で扱っているフォーミュレーションではなく、超伝導ギャップの勾配の効果が含まれるフォーミュレーションから出発し、理論の構築を行う。具体的には、ローレンツ力と超伝導ギャップの勾配による力を含んだ準古典方程式に基づいて、上部臨界磁場近傍におけるホール角の表式の導出を行う。ホール角の表式の導出は、準古典方程式に対し、(1)無次元準古典パラメータに対する摂動展開(2)外部電場に対する線形応答という二つの展開を同時に採用し、それぞれの展開に対する1次のオーダーの量を用いて行うことができると考えている。準古典パラメータの0次オーダーの解は、先行研究(T. Kita, J. Phys. Soc. Jpn. 73, 21 (2004).)の方法に従って得る。その後、s波対称な超伝導ギャップと球形フェルミ面を持つ系を仮定し、上部臨界磁場近傍におけるホール角の磁場変化について解析する。特に、ローレンツ力と超伝導ギャップの勾配による力のどちらが支配的かを、温度や不純物濃度などのパラメータを変化させながら統一的に調べる。超伝導ギャップの勾配による力がローレンツ力と競合する場合は、どのような温度・不純物領域で競合するのかを具体的に調べる。
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