2018 Fiscal Year Annual Research Report
ジャック・ランシエールにおける「フィクション」概念と自由間接話法に関する研究
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18J13380
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 亘 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | ジャック・ランシエール / 美学 / ジャン=フランソワ・リオタール / ピエール・ブルデュー |
Outline of Annual Research Achievements |
ランシエールの芸術論における「フィクション」概念の解明に先立って、彼がこの概念の練り上げによりいかなる独自性を打ち出そうとしているのかを考察するべく、ランシエールが同時代の思想家に対しいかなる批判的立場を取り、いかにして自身を彼らと差異化しようとしているのかを際立たせる作業を行った。具体的には、1. ジャン=フランソワ・リオタールと2. ピエール・ブルデューとの差異の探求である。 1に関してはこれまでの研究の延長に位置づけられるが、本年度とりわけ重点を置いたのは、リオタールがカントの崇高論の読解を通じ、芸術の役割を「表象不可能なもの」や「絶対的なもの」といった、いわば超越性を有するものの「暗示」に求めているのに対し、ランシエールはそうした超越的なものへ向かう思考から遠ざかろうとしていることである。ここで明確化したランシエールのこうした態度は、次年度に計画している彼のマラルメ論を読解する上で、良い見取り図を与えてくれる。 2に関しては『哲学者とその貧者たち』におけるブルデュー批判を検討し、ランシエールがブルデューの話法を解放の抑圧として難じる議論の運びを跡づけた。これは申請書に次年度の計画として記した、ランシエール美学の文体論的研究を準備するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は「研究実績の概要」に記した2つの作業を、ともに一定の仕方でまとめ上げることができた。具体的には以下のようになる。 1の作業の成果は、来年度にセルビア・ベオグラードで開催予定の国際美学会(21st International Congress of Aesthetics)で発表予定である。これはすでに発表原稿を提出済みであり、今後発表のためにブラッシュアップする可能性は大いにあるものの、ひとつの成果として形になっている。 2の作業の成果も論文化し、学内の紀要『美学芸術学研究』に提出・採用済みである。 以上のことから、ランシエールの「フィクション」概念に正面から取り組むという道筋からは少しばかり外れてはいるものの、深度という観点から見て、本年度の研究は「(2) おおむね順調に進展している」と評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究を通じて、今後進めるべき2つの作業への見通しを得た。 1. ランシエールのマラルメ論の研究。本年度はランシエールのリオタール批判を検討し、超越性を希求するタイプの芸術論に対しランシエールが取る距離を明確化した。注目すべきは彼のマラルメ論(彼は96年の『マラルメ』から現在に至るまでマラルメを度々論じている)においても、既存のマラルメ研究による「虚無」や「絶対」の重視と対決する形で、一貫して形而下の物質的なものに対するマラルメの視線を強調している点である。来年度はランシエールにとって特権的な作家の一人であるマラルメに関する考察をかかる枠組を基礎にして考察し、それをもとにランシエールの文学論における「フィクション」概念を明確化する計画である。 2. 文体論的観点から見たランシエール美学の研究。本年度検討したランシエールのブルデュー批判を元に、今後は彼の特徴的な記述のスタイルが、引用や分析対象に自らの読解格子を押し付ける従来の哲学的読解方法への抵抗から生み出されたものであることを論じる。ランシエールの自由間接話法の使用は、地の文の書き手である自分の視点と引用対象の視点とを混交させることで自らの現実認識を再構築する、「フィクション」の行為の実践であることを明らかにする。
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