2018 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀中葉ロシアの対清政策転換と在華宣教師についての総合的研究
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18J13383
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
畔柳 千明 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 宣教師 / アルバジン人 / 東教宗鑑 / 漢文脈 / 露清関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度においては、主に19世紀中葉のロシア人在華宣教師による教理入門書および祈祷書の漢訳事業について研究を実施した。これについては、「明治初期の正教会における祈りと漢訳教典」と題して口頭発表を行い、また発表内容を発展させた論文を現在執筆中である。これらの発表および論文では、北京で翻訳・出版された『東教宗鑑』のテキストとその日本への伝播を手掛かりに、西欧を含めたこれまでの宣教師研究であまり取り上げられてこなかった教理入門書・祈祷書の翻訳に光をあて、中国と日本における伝道の実態をより詳細に明らかにすることを試みた。 また先行研究を整理した上で、19世紀露清関係史を研究するにあたり、あえて在華宣教師に着目する意義について考察した。これについては、「前近代露清関係における『北京宣教団』史の意義――博論構想にあたり」と題して口頭発表を行った。先行研究において、清朝の対外関係のうち、ロシアはある「特殊」な地位を占めていたと見なされ、北京宣教団の存在はその根拠とされてきた。しかし、北京宣教団のそうした貢献を疑問視する見方は近年の研究で強まっていると言える。発表では、北京宣教団の参加者による中国研究を通じて、北京宣教団史を再評価する必要性について論じた。 また外部に出張して次のような調査を行った。まず2018年9月から11月まで、2019年2月から3月まではロシア連邦科学アカデミー東洋学研究所に滞在した。同研究所付属東洋学者アーカイブ、ロシア国立歴史文書館、ロシア国立図書館、ロシア帝国外交史料鑑、ロシア連邦国立公文書館にて文献調査を行った。2019年2月には仙台を訪問し、宮城県図書館で研究課題に関連する文献の調査・収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度においては、ロシアで複数のアーカイブに足を運んで今後の研究の基礎となりうる資料を収集することができ、またこれに基づいて博士論文の構想を具体化することが出来た。またロシア科学アカデミー東洋学研究所での滞在時には、現地の研究者と交流して助言を得て、研究テーマを深化させることができた。調査に基づき2度の口頭発表を行い、研究成果の発表にも積極的に取り組むことができた。以上により、特別研究員は、本研究課題はおおむね順調に進展しているものと自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度は、19世紀中葉の在華宣教師であるグゥリイ・カルポフ関連の史料・文献の整理と分析を行う。まず昨年度に引き続き、中国語訳入門書・祈祷書出版史を検討する。4月中に予定している宮城県図書館を訪問しての資料撮影をもって、既に所蔵先の明らかな日本語資料については収集作業が完了する見込みであり、中国語の一次資料だけでなく、ロシア語・日本語資料を十分に活用して比較を行う。成果は6月に論文として投稿することを予定している。 6月からは、昨年度ロシアで収集したカルポフの書簡に基づき、清朝と英仏、および清朝とロシアの間で北京条約が締結された際の外交交渉において、カルポフが果たした役割を検討する。研究にあたっては、北京条約の研究史を十分に整理するとともに、『籌弁夷務始末』等の資料集を活用して中国語史料との対照を重視する。8月に研究会で成果の一部を発表する。並行して、既に発表した論考を整理して博士論文の構想を具体化し、必要となる資料を明確化する。 9月からは、半年間、所属大学の交流協定を利用して、サンクトペテルブルク国立大学東洋学部に滞在する。時間が限られるため、滞在中は資料収集に集中し、昨年度閲覧したものの、時間的制約等からコピー・撮影が済んでいない資料を優先的に収集する。ロシア国立歴史文書館、およびロシア帝国外交文書館、ロシア科学アカデミー付属文書館では、在華宣教師および宣教師の関係者の個人文書を収集する。また現地の研究者と交流し、とりわけサンクトペテルブルク大学のニコライ・サモイロフ教授(東アジア近現代史)、ロシア科学アカデミー東洋学研究所のタチヤナ・パン教授(清朝史)に助言を求め、ロシア国内の最新の研究成果を取り入れる。 2月にロシアから帰国した後は、本年度に収集した資料をそれまでの成果とあわせて整理し、博士論文執筆を進める。
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Research Products
(2 results)