2018 Fiscal Year Annual Research Report
細胞膜上の糖鎖構造の変化に起因する悪性形質獲得の分子メカニズムの解明
Project/Area Number |
18J13735
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
荒木 映莉乃 名古屋大学, 生命農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 癌 / 糖鎖 / ポリシアル酸 / ポリシアル酸転移酵素 / ST8SIA2 / ST8SIA4 / 糖脂質 / 悪性形質 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、「細胞膜上の糖鎖構造の変化に起因する悪性形質獲得の分子メカニズムの解明」が目的である。細胞膜は細胞の中と外を分ける重要な分子装置であり、脂質二重膜の外葉はタンパク質や脂質に結合した糖鎖(糖タンパク質、糖脂質)で覆われている。細胞表面の糖脂質は、規則正しく膜中に分散して存在するわけではなく、ラフトと呼ばれる自己会合性の膜分子が形成する微小領域に存在し、細胞間の相互作用、細胞膜の流動性や細胞内外のシグナル伝達を仲介する機能を持つ。通常、細胞が癌化すると、細胞表面の糖鎖構造に異常が起こる。特に酸性糖のシアル酸の増大は、浸潤や転移などの癌の悪性形質と深く関わっている。本研究では、糖鎖の末端のオリゴ、ポリシアル酸を合成する酵素群(ST8SIA2,4,5)に着目し、ST8SIAシリーズの合成する糖タンパク質及び糖脂質の構造と悪性形質との関係を明らかにし、末端シアル酸の役割を解明する。ポリシアル酸はシアル酸が8-400残基縮重合した構造の総称で、癌胎児性抗原として知られている。ポリシアル酸は自身の水和効果による巨大な排除体積によって、細胞-細胞/細胞外マトリックス間の接着を負に制御する分子として認識されており、癌細胞では、その反接着作用に基づく転移性獲得能が知られている。ポリシアル酸は、2種のポリシアル酸転移酵素(ST8SIA2,4)により合成されるが、その構造は、既存の抗ポリシアル抗体によって明確には区別されず、共に反接着性を示すものと考えられてきた。しかし、これらのポリシアル酸構造は、近年我々が見出した分子結合性というポリシアル酸の新たな性質によって区別されることが判明した。本年は、ポリシアル酸鎖と癌転移性との関連性に鑑み、両酵素によって合成されるポリシアル酸鎖が癌形質において機能的差異を持つか否かを明らかにすることを目的とした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでにB16マウスメラノーマ細胞にST8SIA2及びST8SIA4遺伝子を導入して安定発現株 (Mock、B16-ST8SIA2、B16-ST8SIA4) を樹立し、その性質を解析した。その結果、細胞の増殖能及び足場非依存的増殖能においてB16-ST8SIA4の悪性度が高いこと、ST8SIA2とST8SIA4により癌形質への寄与に機能的な差異が生じることをこれまでに報告した。本年度は、癌細胞の他の悪性形質である細胞の遊走、浸潤能の解析を行った。その結果、細胞の遊走能には有意な差は見られなかったが、浸潤能においてはMockと比較してB16-ST8SIA2、B16-ST8SIA4ともに、有意に増大しており、ポリシアル酸の発現によりさらなる悪性形質の獲得が示された。細胞の増殖能や浸潤能においてST8SIA4の合成するポリシアル酸がより悪性化に寄与する分子メカニズムを明らかにするために、ST8SIA2とST8SIA4の合成するポリシアル酸の担体タンパク質の解析およびシグナル分子について網羅的に解析を行った。その結果、ST8SIA2とST8SIA4が形成するポリシアル酸鎖の主な担体タンパク質に差異は見出されなかったが、シグナル分子においては差異や活性化の程度に差が見られた。以上のことから、ST8SIA4が合成するポリシアル酸鎖が癌の悪性形質に寄与し、ST8SIA2とST8SIA4によりポリシアル酸鎖の機能的な差異が生じることを明らかにした。さらに、悪性形質を制御しているシグナル伝達経路の一端を明らかにした。 また、B16マウスメラノーマ細胞に糖脂質末端のジシアル酸の合成酵素(ST8SIA5S,M,L)遺伝子を導入して安定発現株を樹立し、その性質を解析した。その結果、悪性形質の一つである足場非依存的増殖能に差があることが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
タンパク質上にポリシアル酸構造を合成するST8SIA2及びST8SIA4と悪性形質の関わりを明らかにする。ポリシアル酸はシアル酸のポリマー構造で、癌胎児性抗原として知られている。これまでの解析により、ST8SIA4により合成されたポリシアル酸鎖が癌の悪性化に寄与し、ST8SIA2とST8SIA4によりポリシアル酸鎖の機能的な差異が生じることを明らかにした。さらに、悪性形質を制御しているシグナル伝達経路の一端を明らかにした。今後は、ST8SIA2及びST8SIA4により合成されたポリシアル酸構造の差異がどのようにして悪性化に寄与しているのか、そのメカニズムを明らかにするためにポリシアル酸鎖の構成成分と構造を明らかにする。さらに、悪性形質を制御するシグナル伝達分子とポリシアル酸とのクロストークについて解析を行う。 さらに、糖脂質末端のジシアル酸の合成酵素(ST8SIA5 S,M,L)の3つのバリアントに着目し、それらの合成する糖脂質の構造と悪性形質との関係を解明する。これまでに、ジシアル酸を認識する抗体によりST8SIA5 S,M,Lの間で量的あるいは質的な差異が検出された。さらに、悪性形質の一つである足場非依存的増殖能に差があることが明らかになった。ジシアル酸の差異は、欠損部位が酵素の幹部であることに起因すると考えられる。そこで、ST8SIA5 S,M,Lの基質特異性を解析する。次に、ジシアル酸含有糖脂質の組成の変化が悪性形質に及ぼす影響を解析する。in vitroで細胞の増殖能および、細胞の浸潤能、遊走能について解析を行う。最終的には、糖脂質組成の変化により悪性形質を獲得する分子メカニズムをラフトに着目して解析する。
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