2018 Fiscal Year Annual Research Report
昭和モダニズムにおける着物受容――着倒れの町京都を中心に――
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18J14045
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
枝木 妙子 立命館大学, 先端総合学術研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | モンペ / 第二次世界大戦 / 奢侈品等製造販売制限規則 / 防空演習 / 婦人会 / ファッション / 非常服 / 婦人標準服 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、これまで着物の生産が不可能であったために「空白の時代」とされてきた戦中の着物の一側面を明らかにするために、「モンペ」に注目して研究を行った。そのために、7.7禁令以降である1940年から終戦を迎える1945年までに発刊された婦人雑誌および新聞の調査を行った。本研究では、モンペの普及を一種の「流行」ととらえ、出版メディアの分析を通してその普及過程を明らかにし、学術論文として投稿した。 本来モンペは大正期に農村を中心に展開された生活改善運動によって、農村の野良着として普及した。そして第二次大戦中に都市の人々が防空訓練を行わなくてはならなくなったために、活動しやすい「非常服」として都市部を含め全国で普及した。それは国策による「婦人標準服」をはるかに上回っていた。モンペが普及した理由として、都市の人々には、モンペと農村の女性が強く結びつきモンペが「勤労」の象徴となっていたためである。 その中で、モンペは徐々にその形状を洋装化させてゆき、柄も単純なものへと改良されていった。ただし、モンペは単純に標準化していっただけではなかった。同時に、華美な柄や立体的な形状など先端的「ファッション」としての逸脱もあった。 本研究は、戦中の着物文化を、人々が創意工夫によって生み出した数少ない自己表現の方法(ファッション)として見ることにより、当時の人々がいかなる服飾文化を築いたかを考察したことに意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度に計画していた1940年から1945年に発刊された婦人誌の調査を行い、その成果を以下のように発表した。日本語の依頼講演に加えて、英語でも研究報告を行い、そこでの質疑応答を踏まえて考察を加えたものものが査読を経て学術論文として公刊された。同論文では、これまで服飾史において空白の時代とされてきた戦中にも、人々が工夫を凝らしてファッションを楽しんでいたことを明らかにすることができた。 また当初予定されていた初年度の個人コレクターの聞き取り調査や国会図書館の調査だけでなく、立命館アートリサーチ・センターでの「京都における伝統産業資料の保存と活用プロジェクト」にも参加し、友禅図案の資料整理及びデジタルアーカイブ化作業を行い、学部学生に友禅図案の撮影方法をレクチャーした。 加えてプロジェクトメンバーである立命館アジア・日本研究機構「『アジア芸術学』の創生」では、上海および台湾で調査を行った。上海では、上海における国際的な美術史研究と美術展の現状を把握するために上海美術学院主催の「The Exhibition of Asia-Europe Classic Prints & International Forum」に参加し、上海博物館および龍美術館を見学した。台湾では、台湾での美術史研究、美術展示、写真活動を調査するために、台北のLightbox撮影図書室にて現代台湾の芸術写真についてのレクチャーを受け、台北ビエンナーレを見学して資料収集、台南市で奇美博物館を見学した後、台南市美術館主催の「藝郷ー2019臺灣近現代美術國際學術研討會」に参加した。以上から本研究課題の初年度の研究計画は期待以上の研究の進展があったと評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、人々が創意工夫によって生み出した数少ない自己表現の方法(ファッション)として着物を見ることにより、大正・昭和初期の人々がいかなる服飾文化を築いたかを考察することを目的とする。次年度は前年の調査結果を踏まえて、3つの調査を進めていく。 まず風景が描かれた着物に注目し、東海道五十三次や富士山など、伝統的風景を描いた着物が近代に入ったことによって、いかにその柄が変化していったのかを明らかにする。これは、6月1日に行われるベルリン自由大学と共同で行われる「Berlin-KU-RU Workshop」にて、「Landscapes in Kimono design of the early Showa period」と題し、英語発表を行う。 次に、立命館アジア・日本研究機構での「「アジア芸術学」の創生」における共同研究では、日本統治時代の植民地に日本の服飾文化が如何に流れ込み、逆に日本に植民地の文化が流入したのかという新たな研究課題を見出した。同課題は研究をより展開していくうえで重要な主題であると考えられるため、次年度も引き続き調査を展開していく。本課題は、立命館大学アート・リサーチセンター紀要『アート・リサーチ』に論文を投稿する。 最後に、今年度は夏季休暇中に、ライプツィヒ大学への交換留学が決定している。その際にライプツィヒ大学で行われるワークショップにて研究状況を発表し、意見交換を行う。またこの期間を利用し、ヨーロッパ圏の博物館及び美術館に所蔵されている染織関連資料の調査及び海外における染織作品の展示方法について調査を行う。7月22-26日には、「International Congress of Aesthetics」がベオグラードで行われるため、これに参加し、国際的な美学研究状況の把握に努める。
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Research Products
(3 results)