2018 Fiscal Year Annual Research Report
ジャン=ジャック・ルソーにおけるレトリックの問題―自己像、読者像を中心に―
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18J14444
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大山 賢太郎 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | ジャン=ジャック・ルソー / 自己像 / 読者像 / レトリック |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、二つの研究テーマに基づき研究活動を行なった。ここで研究テーマとは、①レトリックの伝統におけるルソーの位置付け、②ルソーの理論的作品における自己像、読者像、を指す。以下、これらの研究課題に関して、得られた研究成果を報告する。 研究テーマ①については、まず古代ギリシャにおける修辞学ないしは弁論術を概観し、次に18世紀当時の修辞学教育を参照した。特に18世紀当時の文献からは、当時の言語論が垣間見え、ルソーと言語をめぐる問題を検討する上で、重要な示唆を得ることができた。さらに、ポール・ド・マンらの脱構築批評を中心に、現代の修辞学理論を検討した。以上の結果、ルソーのレトリック分析における重要な見解が得られた。つまり、言語の自律性を顧みず、散見される個々の修辞技法に尽く一貫した意図を見いだすのはナイーヴと言わざるを得ない、ということである。報告者は、以上の点に留意した上で、ルソー作品に確認されるレトリックの独自性を検討した。 研究テーマ②において、報告者はまずルソーの最初期の作品である『学問芸術論』と『人間不平等起源論』を検討した。その結果、ルソーが伝統的なレトリックを尊重しながらも、独自の修辞技法を駆使し、理想の自己像と読者像を構築していることが判明した。とりわけ後者は注目に値する。両作品において、ルソーが想定する読者は非常に限られた集団である。一方、後年の作品では事情が異なる。例えば、『ダランベール氏への手紙』において、ルソーははっきりと作品の受け手が広い公衆であると宣言している。そのため、ルソーが作中で設定する自己像は「公衆に寄り添った誠実な語り手」であり、彼が使用するレトリックには読み手に対する深い配慮が垣間見える。報告者は、とりわけ「列挙法」と「余談」に着目して作品分析を行い、研究成果を「日本フランス語フランス文学会関西支部大会」にて発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究テーマ①(「レトリックの伝統におけるルソーの位置づけ」)については、計画当初に予定していた通り、ルソー以前の修辞学理論を概観することで、分析の前提となる理論的背景を把握することができた。さらに、現代のレトリックを巡る議論を補助線に今後の研究における重要な知見が得られたことは、計画以上の研究成果であった。 研究テーマ②(「ルソーの理論的作品における自己像、読者像」)に関しては、分析対象として定めた理論的作品について、基本的な分析を終えることができた。初期理論的作品における自己像、読者像の検討により、自伝的作品におけるそれらとの異同が確認された。本年度は、特定の論敵に対して反駁を行う作品にとりわけ着目し、ルソーの設定する自己像、読者像の変遷を明らかにした。以上の分析結果は「日本フランス語フランス文学会」にて口頭発表され、論文掲載が認められているため、一定の研究成果を認めることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
以下、各研究テーマにおける今後の研究課題について詳述する。 研究テーマ①については、A. 同時代の作家と比較した際のルソーの独自性、さらにB. ルソーのレトリックを巡る言語の自律性、を今後の考察対象としたい。研究課題Aに関しては、本年度の研究はあくまでルソー個人を対象としたものであり、ディドロやダランベールといった同時代の著名な作家は分析対象から外されている。しかし、18世紀当時のルソーの独自性を探る上で、同時代の作家との比較は避けて通れず、ルソーを同時代の文学的な文脈に正しく位置付けなければならない。また、研究課題Bについてはより慎重な議論が求められる。これまで報告者は、ルソーが「意図的」に用いたと思われるレトリックを検討してきた。その際、当時の修辞学的伝統からすれば当然見られるような表現技法にまでルソーの意図を読み込むことは避け、作品から読み取れる作家の目的をより反映しているレトリックの抽出を試みた。しかし、ルソーが意図せざる形で作中に生じた修辞的効果にも着目する必要がある。この分析を行って初めて、作品、さらには言語に内在する自律性が浮き彫りとなり、ルソー作品のより豊かな読解が可能となる。 研究テーマ②においては、ルソーの自己像、読者像の線的な変遷を前提としている。しかし、ルソーは晩年の自伝的作品において、自らの気質が矛盾していることを告白している。それゆえ、本研究にて確認された自己像、ならびに読者像も、それらが持つ多面性の一部を取り出したものにすぎない。両者に存在する多層性を探ることを、今後の研究課題としたい。
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Research Products
(2 results)