2018 Fiscal Year Annual Research Report
The Origins of Shingon Shomyo: A Study in the Sanskritic Determinants of Melodic Generation in Japanese Esoteric Buddhist Chant
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18J14503
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
デュラン ステファンアイソル 東京藝術大学, 音楽研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 真言 / 声明 / 梵讃 / 仏教音楽 / 悉曇学 / Shingon / Shomyo / Buddhist Music |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本の梵讃の歴史的なルーツを明らかにすることであり、7世紀インドの音楽理論との結びを付けることでもある。2018年の研究では、幾つかの梵讃の詞章の音韻分析を行い、漢字の「四声」、特に漢字の「平仄」分類方法が、梵讃の旋律の動きに機能しているかどうかを確認した。これによって、多くの梵讃の旋律が、「平仄」に機能しているということよりも、サンスクリットのアクセントに関係していることが分かった。特に、《四梵語讃》《東方讃》《西方讃》《南方讃》《北方讃》という5つの梵讃の旋律に、古典サンスクリットのアクセントが反映されていることが明らかになった。これらの5つの曲の全てが、「反音曲」であり、西洋音楽でいう「転調」をする曲になる。5つの曲は、サンスクリットのアクセントのあるところに特別旋律型が使われている場合が多いが、そこで使われている旋律型が、曲の「調」によって異なるということが分かった。「呂調」では、音が揺れるか途中で切られる性格を持つ旋律型が扱われ、「律調」では、大きく上下する性格を持つ旋律型が適用される。
以上の研究結果は、香港で行われたEARS Forum in Musicology(2018年5月)、アメリカのニューメキシコ州で行なわれたSociety for Ethnomusicology の年度発表大会(2018年11月)において発表した。2019年度『音楽文化学論集』にも投稿し掲載された。最後に、2018年では、日本の梵讃を以上の結果との比較を行うため、梵讃の唱え方を説明する口伝書の読解を行った。関係する書物全ては、高野山大学図書館に所在しているものになる。読解が出来た口伝書は次の文献である:(イ)『声實抄』(ロ)『声明集私案記』(ハ)『声明集聞書』(ニ)『声明口伝』 である。これらを複写し、現在梵讃に関する箇所の書き下しを作成中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの歴史的な研究を進めた結果、そして本研究の初期段階から、日本の真言声明の梵讃の旋律決定規則には、サンスクリットの概念の二つ、 laghu/guru とsandhiが機能していることが、前提として挙げられた。本年度では、いくつかの梵讃の音韻分析を行い梵讃の楽譜に現れる旋律型と比較した上で、以前の前提で挙げた論証の妥当性、旋律決定規則には、古典サンスクリットのアクセントが関係していることが分かった。laghu/guru は古典サンスクリットのアクセントの決定に機能しているものであるので、梵讃の旋律決定規則には、laghu/guruよりも、サンスクリットのアクセントの方が優先になっているという新しい発見があった。そのため、2年度の研究では、梵讃の音韻分析にアクセント分析を加えることにした。
本年度では、七つの口伝書の読解を行った。それらは寂照記の 『三箇秘韻聞記』、寂照記の『声明大意略頌文解』、惠岳記の『声明愚 通集』、1395年頃成立の『声實抄』、作者不明の『声明集私案記』、文明期の『声明集聞書』、明応期の『声明口伝』の七つである。それらの中から本論で扱う資料を後者四つの口伝書『声實抄』、『声明集私案記』、『声明集聞書』、『声明口伝』に絞った。これらは梵讃の詠唱の詳細を説明し、その説明が15世紀以降の楽譜に当てはまり、今の真言声明の伝承に共通するところも多いということが分かった。以上の変更、そして発見から分かる通り、本研究は順調に進んでいると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度では、2018年度に収集した真言声明の口伝書を元に、梵讃に関する部分の書き下し文を作り、それを現行日本語に翻訳する。関係する文献は(イ)1395年頃成立の『声實抄』(ロ)文明期の『声明集聞書』(ハ)明応期の『声明口伝』(ニ)作者不明の『声明集私案記』 の四つである。そして以上の口伝書に出てくる音楽理論を、アジア大陸の仏教声楽理論との比較を行う。このためにはアジア大陸の仏教声楽史をまとめ、インドの仏教声楽理論が、どのようにインドから中央 アジアへ、そして中央アジアから中国へ、さらに中国から日本まで伝来してきたか、という課題に取り組む必要がある。そのために、中国・日本・インド・チベット四つの国の歴史的文献を中心にまとめる予定である。中国の文献には(イ)519年に慧皎という僧侶が成立した『高僧伝』(ロ)4世紀に成立した『楞伽経』という大乗仏教経典(ハ)義浄という中国の僧侶が7世紀後半に書いた『南海寄帰内法伝』、日本の文献には、(イ)安然の『悉曇蔵』(ロ) 明覚の『悉曇要訣』 (ハ)信範の『悉曇秘伝記』(ニ) 澄禅の『悉曇連声集』 (ホ)9世紀の日本の僧侶円仁が書いた『入唐求法巡礼行記』があり、これらを使用する。インドの文献では、7世紀頃までに成立したと考えられている"Naradiyasiksa," "Natyasastra," "Dattilam," "Brihadessi"を扱う予定である。そしてチベットの文献である13世紀の有名な学者サキャパンディタが書いた『楽論』 を参照するために、この文献のRicardo Canzioによる英訳を使う。以上の文献に出てくる音楽理論を、 2018年度で明らかにした梵讃においてのアクセントと旋律の関係と口伝書の読解によって分かった他の音楽概念との結びを付ける。そしてこれらの研究結果を2019年度ICTM年次発表大会で発表する予定である。
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