2018 Fiscal Year Annual Research Report
細菌情報伝達機構による環境適応システムネットワークの研究
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18J14641
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
三宅 裕可里 法政大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 大腸菌二成分制御系 / CRISPR-Casシステム / 多重遺伝子欠失株 / OmpRファミリー / LytTファミリー / ピルビン酸応答 / 適応増殖 / 一細胞分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) 大腸菌TCS遺伝子の欠失株と機能測定システムの構築 大腸菌ゲノム上のTCSセンサーキナーゼ(HK)遺伝子30種類、レスポンスレギュレーター(RR)遺伝子34種類を標的としてCRISPR-Casシステムにより単一欠失株を単離した。また29種類のDNA結合型RRの標的プロモーターのレポーターセット、およびTCS遺伝子群の発現を担う全31プロモーターのレポーターセットを構築した。さらに、20種のHKを欠失した多重欠失株、21種のRRを欠失した多重欠失株を単離した。 (2) 細菌ゲノムの全情報伝達機構による環境応答システムネットワークの解明 628種類の原核生物ゲノム情報から、ゲノムサイズとRRカテゴリー数との間にゴンペルツ曲線で近似する相関関係を見出した。ゲノム当たりのRRカテゴリー数は、5 Mbまでは2個/1 Mb、5 Mb以上では8個であった。ゲノムサイズ4.6 Mbの大腸菌は8個のRRカテゴリーを持ち、これは5つのRRファミリーに分類される。RR遺伝子は14種がOmpRファミリー、10種がNarLファミリー、3種がNtrCファミリー、2種がCriRファミリー、2種がLytTファミリーに分類される。LytTファミリーRRのPyrRについて新規標的遺伝子を同定した。またPyrSRの応答がピルビン酸特異的であること、2つのピルビン酸応答システムBtsSRとPyrSRのピルビン酸濃度による応答性の違い、クロストークの存在を報告した。さらにOmpRファミリーRRの内、大腸菌細胞内で増殖相を通して安定的に存在し、かつポジティブフィードバック調節を行うPhoP、PhoB、OmpRの3つのRRに着目した。顕微鏡観察で得た一細胞分析データの統計解析により増殖への寄与を調べた結果、細菌が環境シグナルに対して感知、応答、適応の3段階を経て発揮する「適応増殖」に重要であることを明らかとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大腸菌ゲノム上に同定されているHK遺伝子30種類、RR遺伝子34種類を標的としたCRISPR-Casシステムによる遺伝子破壊において、Cas9との共発現により宿主大腸菌株のゲノムを標的遺伝子領域内部で高効率に切断するようなガイドRNA発現プラスミドライブラリを得た。切断箇所への終止コドン挿入に際し、いくつかの遺伝子においては終止コドンが挿入されない、挿入後のゲノム配列の確認ができないといった問題が生じた。この問題はガイドRNAの再設計、ガイドRNA発現プラスミドの再構築によるゲノム切断位置の変更によっておおむね解決されたが、30種類のHK遺伝子全てを機能欠失した全HK欠失株、および34種類のRR遺伝子全てを機能欠失した全RR欠失株の単離には至っていない。一方、大腸菌の包括的なTCSプロモーター測定結果やバイオインフォマティックスによる細菌高保存TCSの理解が進み、大腸菌での新しいクロストークの発見や新しい増殖への影響を発見した。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 大腸菌の環境応答システムの全体像の解明 CRISPR-Casシステムを用いたゲノム編集法を利用して、大腸菌ゲノム上のHK遺伝子30種類、RR遺伝子34種類を標的とした遺伝子破壊を行い、全HK遺伝子欠失株および全RR遺伝子欠失株を単離する。単離した欠失株について、トランスクリプトーム解析、プロテオーム解析といったオーム解析、およびレポーターシステムによる各TCS制御下流遺伝子の転写活性測定を行う。さらに、顕微鏡を用いた多重欠失株の増殖能(増殖速度)の単一細胞レベルでの解析により、TCSの増殖機能への影響を調べる。 2. 異種細菌のゲノム情報から推定される主要情報伝達ネットワーク (1) 異種細菌ゲノム情報に基づく環境適応システムの推定:サルモネラ属の2つの菌種(S. enteriaとS. bongori)のうち、チフス菌とネズミチフス菌のゲノム情報、また難培養性化学独立栄養細菌のゲノム(またはメタゲノム)情報から全TCSを抽出し、それらの大腸菌TCSとの構造類似性から機能を大別する。 (2) 異種細菌の主要な環境適応のTCS遺伝子発現システムの構築と情報伝達ネットワークの再構成:得られた情報から、各異種細菌由来HKとRR をそれぞれ異なる誘導物質で発現誘導できるプラスミドにクローニングする。さらに、各TCS制御下流にある遺伝子群を文献中心に調査し、それらのプロモーターをルシフェラーゼレポータープラスミドにクローニングする。構築した各プラスミドを大腸菌TCS多重欠失株に導入した形質転換体を獲得する。種々の環境下でのPhosタグSDS-PAGEを用いた免疫検出による異種細菌TCS因子の細胞内リン酸化の測定およびルシフェラーゼレポーターシステムによる各TCS制御下流遺伝子の転写活性を測定する。導入するHKとRRの組み合わせから、各異種細菌の環境適応システムの全体像を明らかとする。
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