2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18J14744
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
宮崎 茜 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
|
Keywords | フランス文学 / フランス詩 / 19世紀 / ロマン主義 / 散文詩 / アロイジウス・ベルトラン / シャルル・ボードレール / ヴィクトル・ユゴー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、19世紀フランスの詩人、アロイジウス・ベルトラン(1807-1841)における「散文詩」の概念について、彼の詩法の生成過程とその特徴、そして受容の歴史を追うことで明らかにすることを目的としている。「散文詩の創始者」として名前が挙がることの多いベルトランだが、これまでの研究では、この詩人の全体像が十分捉えられてきたとは言えない。詩集『夜のガスパール レンブラント及びカロ風幻想集』にもあるように、彼が試みたのは散文による「幻想」であり、「散文詩」という名称を用いたのはむしろ後世のシャルル・ボードレールからであった。彼がベルトランを賞賛し、モデルとしたことが後の評価と分類に影響したが、ベルトランの詩法の生成過程、そしてそれが「散文詩」として受容されるまでの過程は詳細に検討されてこなかったのである。 これには一次資料の欠如が大きく影響していたが、1992年の直筆原稿発見を受けて、2000年にベルトラン全集が刊行されたことで、近年次第に研究は活況を呈している。そのため、ようやく可能となったベルトランの創作活動全体から鑑みた作品間の比較作業によって、詩法の成立過程とその特徴を詳しく分析する研究を行い、受容とジャンル発展の考察に向けた準備を進めてきた。本年度は特に資料と先行研究の収集を優先したが、実績として形になった研究成果としては、創作活動時期の整理によって判明する一部分、つまり、ベルトランが執筆活動を開始し、ロマン主義運動に憧れた初期において、この運動の指揮者であるヴィクトル・ユゴーといかなる関係にあったのかに焦点を絞って考察したものをまとめ、論文として発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、海外研究指導委託により、パリ第4・ソルボンヌ大学のアンドレ・ギュイヨ教授指導のもと研究を行った。実際に進めた作業としては、パリ国立図書館及びソルボンヌ大学に所蔵されているベルトランの直筆原稿等の資料の閲覧と、日本では入手が困難であった、ベルトラン関連の書籍・論文の収集が主だったものとなった。2007年のベルトラン生誕200周年記念シンポジウムをきっかけに、研究書の刊行が急増しており、折しも2018年はベルトランについての研究雑誌第1号が発刊された年であったため、近年の研究の潮流を掴むには時宜を得た滞在となった。当初予想していたよりも多くの先行研究の存在が明らかとなり、これらの入手と読解に時間を要してしまったが、来年度以降の研究の基盤となるものであろう。土台作りに終始したという点で、期待以上の成果を上げたとまでは言えないが、今後研究を進めるために不可欠な作業であったため、取り組み方としても問題なく順調であるとした。 資料収集によって進んだ研究の内容としては以下のようなものである。先行研究の読解を進めるうち、ベルトランに対する評価に、1820-1842年代(創作活動開始~詩集刊行)を重要視するものと、1860年代以降(再評価以降)を重要視するものの2つがあると整理できた。前者はベルトランを遅すぎたロマン主義者とし、そして後者は早すぎた現代詩人とする評価である。これまでの研究もこれらの側面によって大きく2分されてきたと言える。しかしこれら2つは完全に区別出来、そして詩人がどちらかにのみ属するというものではない。現在は研究を進めるにあたり、むしろ、この区別が困難な部分がベルトランの特性であり、この部分について詳らかにすることが、散文詩の歴史の曖昧さを説明することに繋がるのではないかと考えるに至った。こうした時代区分の意識は、本研究に具体的な方向性をもたらすものであった。
|
Strategy for Future Research Activity |
上で得られた新たな方針に沿って考察を進める。具体的には、1820年代に確かに見られるベルトランのロマン主義への熱狂的態度は、1830年頃から懐疑的なものに変化しており、かつての影響を引きずったまま、新たな詩の形式を模索していた。この1830年代に作品に加えられた変更、そして残された要素が、文学史上で2方向からベルトランが引っ張られ、「散文詩」成立までの蝶番のような存在となっている状況をもたらしていることを示すべく、研究を進めてゆく。 1830年代はフランスにおいてロマン主義運動自体が「陰り」を帯びる時代である。ロマン主義への懐疑的態度に加え、E.T.A.ホフマンと英ゴシック小説の翻訳に端を発する非現実的・怪奇的趣味への傾倒、つまり熱狂文学・幻想文学の流行が見られるためである。ベルトランも、執筆中だった詩集のタイトルと内容を大きく変更しているが、その副題「レンブラント及びカロ風幻想集」に出てくる「幻想」も、1830年代ロマン派のキーワードの一つであり、そもそもこの副題がホフマンの『カロ風幻想曲』から取られている。この年代には、ロマン主義の第2世代、後期あるいは小ロマン派、若きフランスたち、ブーザンゴなど、分類上様々な呼び名が存在しているが、ベルトランの作品を通してこの年代を整理することは、彼のロマン主義に対する姿勢と独自の「幻想」の意味を探り、「散文詩」という概念の創成期を整理することに繋がる。ベルトランが文壇の流れをいかに意識し、利用したのか、今後は彼の創作活動全体を考慮に入れつつも、1830年代に受けた影響に重点を置いてその詩法を考察することとしたい。本年度は初めての海外研究滞在であったため資料収集に終始した面があり、公的な場での研究発表が少なくなってしまったため、来年度は成果の発信にも努めたい。
|
Research Products
(1 results)