2018 Fiscal Year Annual Research Report
ブータンにおける女性の宗教実践とライフコースの多元性
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18J14915
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川村 楓子 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | シングル / 尼僧 |
Outline of Annual Research Achievements |
報告者の研究は、女性たちの宗教実践とライフコース選択を観察することを通し、従来とは異なるブータンイメージを構築することを目的としている。これまでの研究から、ブータン社会において、結婚しない理由を信仰心によって説明するシングル女性が存在することが明らかになった。彼女たちは社会的にも、出家と在家の「はざま」の存在として位置付けられていた。ここから、ブータン社会では女性のライフコース選択において、出家/結婚という二者択一の問題にならない第三の選択肢、「在家であっても尼僧としてシングルとして生きる」という準制度が構築されている可能性が考えられる。本研究では、こうしたシングル女性を中心に据えつつ、「一般的」な既婚女性や出家して尼僧となった女性の生活世界をも見直し、ブータン女性のライフコースを丹念に見ることで、「女性がシングルとして生きる」ということが逸脱にならない社会のありようを明らかにする。 平成30年度は、上記の研究課題の解決に向けて文献購読および長期的なフィールドワークを実施した。フィールドワークでは、ブータンのティンプー、プナカ、ワンデュポダン、タシガンに滞在し、現地語を使用した綿密な聞き取り調査と資料収集を実施した。長期フィールドワークが困難であったブータンにおいて、着実にラポールを築き、現代ブータンの女性のライフコースの選択肢についての基本的なデータを蓄積することに成功した。また、ブータンで開催された国際ワークショップやカンファレンスに積極的に参加したことで、世界中の研究者と知り合い、知的ネットワークを広げることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は、上記の研究課題の解明に向けて文献購読と長期フィールドワークを実施した。 本年度は、調査地であるブータン王国において5年ぶりに総選挙が実施されたため、選挙の全日程が終了し情勢が落ち着く11月末までは、長期滞在査証を取得するのが難しい状況にあった。その為、予定を後ろ倒しして12月初旬に渡航し、調査を開始することとなった。 フィールドワークでは、ブータンのティンプー、プナカ、ワンデュポダンに滞在し、現地語を使用した綿密な聞き取り調査と資料収集を実施した。長期フィールドワークが困難であったブータンにおいて、着実にラポールを築き、現代ブータンの女性のライフコースの選択肢についての基本的なデータを蓄積した。そこでは、出家/結婚という二者択一ではない選択肢も明らかになっており、こうした本研究の事例は、ジェンダー研究や現代ブータン研究の発展に寄与すると考える。 今回の調査では、渡航日程の変更を余儀なくされ、研究計画の練り直しも必要であったが、これもより射程を絞った研究をする上での進展であったと言える。総じて、これらの研究活動は、概ね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、本年度に引き続き長期フィールドワークを精力的に実施していく。 「一般的」な既婚女性、出家者、そしてシングル女性という三者に着目し、彼女たちの生活実践や宗教実践から、女性たちの多元的な生き方を可能にしているブータン社会の宗教的諸相とジェンダーの関わりを明らかにする。具体的には、農村部、都市部、それぞれにおいてシングル女性、出家者、そして「一般的」な既婚女性のライフヒストリーを収集することを計画している。女性たちの語りから、彼女たちが家族/出家という制度に対して何を取捨選択し、どのように自らの立場を交渉しているか、家族・親族や友人、地域住民といった周囲の人々とどのような関係性を築いているのか、調査を通して明らかにする。また、次年度は国際的な場での研究成果の発表、刊行なども積極的に推進したい。
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