2018 Fiscal Year Annual Research Report
体内動態特性とリガンド活性を考慮した病態発症に関わる悪玉酸化コレステロールの同定
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18J14990
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Research Institution | The University of Tokyo |
Research Fellow |
田中 悠介 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 酸化コレステロール / 脂肪肝 / 大腸がん |
Outline of Annual Research Achievements |
①これまでの研究で見いだされた脂肪肝発症に関わる悪玉酸化コレステロールのヒトにおける重要性を脂肪肝患者の血しょう検体を用いて検証するとともに②大腸がんのモデルマウスを作出し、酸化コレステロールが大腸がんの病態進行に与える影響を評価することを目的として検討を進めた。
①脂肪肝患者の血しょう検体を用いた検証 これまでのマウスを用いた検討によって脂肪肝病態を増悪させることが見出された2種類の酸化コレステロールについて、ヒトの脂肪肝病態においても重要であることを確かめるために、臨床検体取り扱いのための各種倫理手続きを行ったのちに脂肪肝患者の血しょう検体を収集した。そして、脂肪肝患者の血しょう中に含まれる酸化コレステロール濃度を測定し、脂肪肝の進行度を反映するバイオマーカーとの間に相関関係が見出されるか否か検証した。その結果、2種類の酸化コレステロールの血しょう中濃度と脂肪肝マーカーとの間に正の相関関係が見出され、その相関の強さは他の酸化コレステロールやコレステロールよりも強いことが明らかとなった。 ②大腸がんモデルマウスの作出・酸化コレステロールが大腸がんの病態進行に与える影響の評価 脂肪肝と同様、大腸がんも酸化コレステロールとの関連が示唆されてきたにも関わらず、その背後に存在するメカニズムの詳細については明らかとなっていなかった。そこで、大腸がんと酸化コレステロールの関連について詳しく解析するべく大腸がんのモデルマウス作出を試みた。大腸がんモデルマウスの作出においては、広く汎用されているアゾキシメタンとデキストラン硫酸ナトリウムによる方法を用いた。その結果、14週間で大腸がん腫瘍を発生する大腸がんモデルマウスの作出に成功した。そして、酸化コレステロールが大腸がんの病態進行に与える影響を評価したところ、酸化コレステロールの混餌投与により大腸がん腫瘍の個数が増える結果が確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
脂肪肝患者の血しょう検体を用いた解析によって、これまでのマウスを用いた検討において脂肪肝病態との関連が示唆されていた2種類の酸化コレステロールについて、ヒト脂肪肝病態においても重要である可能性を示唆する結果を見出した。この成果は、脂肪肝の新たな治療戦略・創薬標的の提示にも繋がる可能性を秘めており、医学的・薬学的・栄養学的に重要な成果である。さらに、大腸がんに関しても、これまで明らかになっていなかった酸化コレステロールとの関連およびその背後に存在するメカニズムを詳しく解明するべく、大腸がんモデルマウスを作出した。そして、作出した大腸がんモデルマウスを用いて、酸化コレステロールが大腸がん病態を増悪することや大腸がん病態の進行に胆汁酸が関与する可能性を見出した。現在、大腸がん病態進行のさらに詳しいメカニズムを解明するべく、胆汁酸をリガンドとする受容体に着目して大腸がんへの関与を確かめるためのアンタゴナイズ実験を進めている。 以上を踏まえ、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
〈各疾患モデル動物を用いた病態進行に関わるシグナル経路の探索・解明〉 酸化コレステロールにより活性化することが報告されている核内受容体、酸化ストレス応答性シグナルといった病態進行に関わりうる候補分子のアンタゴナイズおよびノックダウンによって各疾患の緩解が認められるかどうか検討する。また、各疾患モデル動物の病変部位に発現するタンパク質のプロテオーム解析を行うことによって、酸化コレステロール投与の有無により発現量の変動が認められる分子群を探索し、病態進行に関わる未知のシグナル経路の同定を行う。
〈各酸化コレステロールの毒性(リガンド活性)解析〉 ここまでの解析で明らかとなった病態進行に関わるシグナル経路の下流で活性化される転写因子の応答配列をルシフェラーゼ遺伝子上流に組み込んだレポーターベクターを構築し、ルシフェラーゼアッセイを行うことで各酸化コレステロールのリガンド活性を評価・比較する。
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