2018 Fiscal Year Annual Research Report
セネガル・ムリッド教団における「労働の教義」の解釈:言説と実践の分析から
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18J15050
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Research Institution | Kyoto University |
Research Fellow |
池邉 智基 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | セネガル / イスラーム / ムリッド教団 / バイファル / 口頭伝承 / 歴史 / 宗教実践 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、セネガル共和国に存在するイスラーム神秘主義教団であるムリッド教団の「労働の教義」が、都市や農村で生活する信徒らによっていかに解釈され、実践されているかを明らかにすることである。平成30年度は、①2018年7月から10月、②2019年2月から3月に、セネガル共和国ダカール州を中心にフィールド調査を実施した。 ①2018年7月から10月にかけての調査では、ダカール州各地で開かれる儀礼に参加し、路上で行われる托鉢実践を観察した。また、教団の設立者であるアマドゥ・バンバの聖者祭に参加し、そこで歌われるズィクル、また語られる歴史の伝承などを録音し、文字起こしをした。その結果、次の2つのことが明らかになった。1点目には、儀礼や祭で消費する食品や物品が、托鉢で集めた金に加え、信徒間のネットワークを通じて集められた金によって賄っていること、そして集められた金がいくつもの信徒に分散して保管され、それぞれが帳簿をつけていること、その使用用途について携帯電話で連絡を逐一とっていることがわかった。2点目に、儀礼などで歌われたズィクルや語られる歴史には共通して定型句が用いられており、それが広く認識されているいくつかの詩をもとにしていることがわかった。さらに、歴史伝承は語り手によってかなり変化の強いものであることがわかった。 ②2019年2月から3月にかけて、セネガルのシェーフ・アンタ・ジョップ大学に設置された黒アフリカ基礎研究所(IFAN)において、文献調査を行った。本調査は西アフリカの歴史書『スーダーン年代記』の翻訳作業において関連文献を参照するという重要な調査であり、ニジェール川中流域の歴史を明らかにするためにどういった資料にアクセスできるかの情報収集と整理、そして文献収集をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
セネガル・ダカールでの調査は、これまでの現地調査よりも長期で滞在することができたため、いかにムスリムたちが人的ネットワークを駆使しながら宗教実践を行い、その金銭的援助を行いあっているかといったことを、調査対象者との信頼関係を築きながら行うことができた。計4ヶ月の現地滞在のうちで、調査対象の祭や儀礼に参加し、ウォロフ語の詩や歌の内容を録音し、文字起こしするという作業ができたことは、今後の研究を進めるうえでも貴重な機会となった。本研究は、セネガルの民衆レベルの宗教実践を観察し、人々の生活と宗教的なつながりについて明らかにするものであるが、今回の渡航では広範囲に信徒たちと信頼関係を築くことができ、聞き取り調査も順調に実施できた。また、黒アフリカ基礎研究所(IFAN)における文献調査では、紀要論集や、機関誌、その他出版された書籍や論文集などを参照し、人類学や社会学だけでなく、西アフリカにおける歴史学、考古学などの文献も網羅的に確認することができた。 調査結果に関しては、東京外国語大学のアジア・アフリカ言語文化研究所で開かれたシンポジウム「西アフリカ・イスラーム研究の新展開」で口頭発表した。その成果として、平成31年度に雑誌論文にて投稿を予定している。さらに平成28年度から西アフリカ最古の歴史書『スーダーン年代記』の翻訳作業も、共著で作業を続けており、今年度には投稿に向けた準備を進め、平成31年度に投稿を予定している。また、『アジア・アフリカ地域研究』に書評を載せたほか、『大学生・社会人のためのイスラーム講座』にコラムを寄稿した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き、セネガルへ渡航して現地調査に従事することで、平成30年度に集めた情報を補足するための資料の収集に努める。今後は信徒らが行う宗教実践を観察し、祭や儀礼の場で行われる口承のパフォーマンスについて調査する。特に、口承の詩を用いて議論をする場において、歴史、歌、詩といった一次資料を収集し、分析する。聞き取り調査は、ダカールで主に宗教実践の中心にいる人物を対象とするが、他にもいくつかの都市や農村をまわり、共同体の形成についての歴史や伝承を収集し、宗教実践の様子も観察するなど、実践空間に着目して調査を行っていく。
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Research Products
(1 results)