2018 Fiscal Year Annual Research Report
高密度核物質中におけるパイ中間子位相欠陥と核子質量起源の相関性
Project/Area Number |
18J15329
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
川口 眞実也 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
|
Keywords | パイ中間子位相欠陥 / スカーミオン結晶 / トポロジカル相転移点 / 磁場 / 非一様カイラル凝縮 / ハドロン有効模型 / 核物質 / カイラル対称性 |
Outline of Annual Research Achievements |
カイラル対称性を尊重して核物質を記述するスカーミオン結晶手法を用いて、パイ中間子位相欠陥(パイ中間子場におけるエネルギーの空間的局在化)が核物質に与える影響について解析を実施した。核物質中にパイ中間子位相欠陥が存在することで核子のエネルギーが増加し、核物質の構造がパイ中間子位相欠陥の分布変化に伴って歪むことを指摘した。スカーミオン結晶は、高密度領域で核物質の結晶構造が変化することが知られており(「トポロジカル相転移」)、パイ中間子位相欠陥の存在によってトポロジカル相転移点が低密度領域に移ることを示した。加えて、相転移後では核物質中にパイ中間子位相欠陥が存在できない可能性についても示唆した。 外場としての磁場がスカーミオン結晶に与える影響についても解析を行った。磁場中での核子1つあたりのエネルギーの振る舞い方は核子の多体系と孤立系の場合によって違いがあることを示した。トポロジカル相転移については、相転移点が磁場の効果によって高密度領域に移ることを示した。また、磁場による核物質形状の変形についても解析を行った。相転移前ではバリオン1つあたりの形状が磁場によって球体から楕円体へ変形し、相転移後では磁場によって結晶形状の原型がなくなるほど大きく変形することを示した。加えて、核物質中での非一様カイラル凝縮(密度中でカイラル対称性が回復する過程で発現する相)への磁場の影響についても解析を行った。低密度領域では非一様カイラル凝縮の空間分布が磁場によって局所的になる傾向があり、一方、高密度領域では磁場の影響を殆ど受けないことを指摘した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究対象である中性子星は核子が密に敷き詰められことで高密度核物質を成し、結晶構造を取る可能性がある。本研究では核物質が結晶構造を取るとし、スカーミオン結晶手法を用いることにした。用いる模型の手法に変更はあったものの、本年度の研究内容は概ね達した。「パイ中間子位相欠陥による核物質への影響」についての解析は計画通りに研究が進み、国際会議での発表と物理学会での報告に基づき「Chiral soliton lattice effect on baryonic matter from skyrmion crystal model」を論文として発表した(学術論文誌に投稿中)。 また、磁場の影響を考慮した場合についての解析は、スカーミオン結晶手法に磁場を導入した先行研究が存在しなかったため、パイ中間子位相欠陥を考慮しない場合での「磁場が与えるスカーミオン結晶への影響」という研究を行った。これについては、「Magnetic field effect on nuclear matter from a Skyrmion crystal model」を論文として発表した(学術論文誌に掲載済み)。この研究により、来年度から「磁場を考慮した場合でのパイ中間子位相欠陥による核物質への影響」についての解析を本格的に始める準備を整えることができた。 解析で用いる手法の変更、本年度の予定していた研究内容の一部の先送りなどの、当初予定していないことは起こったが、研究成果としては十分な結果が挙げられていると考え、本年度の研究は概ね順調に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
基本的には交付申請書に記載した内容に沿って研究を実施する予定である。詳細な内容としては、スケール対称性の破れを考慮することで新しい自由度としてディラトンをカイラル有効模型に導入する。拡張した模型を用いて、パイ中間子位相欠陥が与える核物質への影響を再解析する(核子のエネルギー、核物質の構造、トポロジカル相転移、非一様カイラル凝縮の再評価)。加えて、パイ中間子崩壊定数への密度依存性の評価を行うことで、カイラル対称性の回復とスケール対称性の破れの相関性について議論を行う。 先送りにした、「磁場を考慮した場合でのパイ中間子位相欠陥による核物質への影響」についても解析を行う。本年度の結果である「磁場が与えるスカーミオン結晶への影響」を基にパイ中間子位相欠陥を導入し解析を行う。また、核物質の磁化を見積もることで、パイ位相欠陥相での強磁場生成機構についても言及する。
|