2019 Fiscal Year Annual Research Report
補修・更新・廃棄を考慮した次世代型インフラアセットマネジメントシステムの開発
Project/Area Number |
18J20014
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
二宮 陽平 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | アセットマネジメント / 維持管理 / 確率 / 統計 / 最適化 / リスク / 点検データ / 劣化予測 |
Outline of Annual Research Achievements |
主な研究成果として、以下の3点を挙げる。1)点検データのサンプル選択バイアスを考慮した統計的劣化予測手法の開発。2)レジームスイッチング・マルコフ劣化ハザードモデルによる橋梁伸縮装置の取替施策の最適化。3)下水道管渠の地理情報を用いた重点維持管理のためのスクリーニング。 1)サンプル選択バイアスを明示的に考慮して、社会基盤施設の時系列点検データに基づく劣化予測モデルを提案した。社会基盤施設に関する点検データは、その供用期間中に経験する補修・補強に起因して、欠損することが少なくない。そこで、ヘックマンのプロビット選択モデルに基づき、劣化予測モデルを定式化した上で、社会基盤施設に対する点検データのサンプル選択バイアスの効果を把握するとともに、サンプル選択バイアスを考慮した統計的劣化予測手法を開発した。 2)橋梁は多様な部材によって構成された複雑なシステムであり、ある部材の劣化が他の部材の劣化過程に影響するような部材間の関連性を考慮した上で、補修の実施タイミングを決定する必要がある。そこで、伸縮装置からの漏水に起因した鋼桁端部の腐食過程を、伸縮装置からの漏水の有無に応じて2種類の状態モードを定義した上で、モードごとに設定したハザード関数を有するスイッチング型のマルコフ劣化ハザードモデルで表現した。 3)近年、下水道管渠の老朽化が顕在化し、更新が必要な管渠の数が増加している。これらの下水道管渠に対して一斉に更新を行うことは困難であるため、更新の優先順位付けを行うことが望ましい。そこで、管渠の点検データに混合マルコフ劣化ハザードモデルを適用することにより、劣化速度の差異を推定した。さらに、管渠の地理情報とともにカーネル密度推定を行うことにより、劣化速度の大きい管渠が密集する地域を特定し、重点的な維持管理を必要とする地域のスクリーニング手法を提案した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究課題は当初の計画以上に進展している。その理由として、研究実績の概要で挙げた3点の研究成果に対してそれぞれ、当初の計画では想定していなかった以下の点で評価できるからである。 1)既往研究の枠組みでは、劣化予測のために用いる点検データにサンプル欠損がある場合であっても、サンプル欠損を恣意的に補完することが多かった。今年度の研究では、サンプル欠損メカニズムを劣化予測モデルに内包することにより、サンプル欠損バイアスを理論的に補正した劣化予測を行った。この研究成果は、劣化予測結果が精緻になるとともに、劣化予測結果の客観性を担保することを可能とした。 2)鋼桁端部の腐食の原因が、伸縮装置からの漏水であることを、実際の橋梁点検データから示唆している研究事例はあるものの、伸縮装置からの漏水の有無に応じた鋼桁端部の腐食の進展速度を定量化した研究事例は存在しなかった。この課題を解消することにより、研究成果の新規性を見い出せた。さらに、実際の点検データを用いて劣化予測モデルを推定した上で、漏水の有無による鋼桁端部の腐食進展速度の相違を検証した。この研究成果は、伸縮装置の予防保全が鋼桁端部の腐食進展を抑制し、結果的にライフサイクル費用が低減するという実証分析を可能とした。 3)劣化速度の大きい下水道管渠の地理的な密集度を定量化することにより、重点的な維持管理が必要な地域を推定した。さらに、下水道管渠の将来的な劣化および更新をシミュレーションした上で、重点的な維持管理が必要となる地域の経年の推移を、地図上で可視化した。これらの研究成果は、下水道管渠の更新計画の改善や、下水道管渠の年度ごとに必要な維持管理予算の見積もり、といった下水道のアセットマネジメントに有用となる知見の提供を可能とした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、以下の2点を挙げる。1)床版疲労き裂の発生・進展過程に着目した高速道路高架橋の大規模修繕箇所の選定方法の開発。2)ポットホールの発生頻度を補完的情報とするRC床版の状態依存型点検スキームの策定。 1)高速道路高架橋の鋼床版において多数の疲労き裂が発生・進展すれば、鋼床版の疲労耐久性に著しい影響を及ぼす。事後補修を行ったとしても健全性の根本的な回復が期待できない変状や損傷に対しては、発生状況や進展過程を勘案しながら大規模な修繕や更新を視野に入れた維持管理計画を策定する必要がある。そこで、目視点検では直接観測することが困難な疲労き裂の発生時点を潜在変数として明示的に考慮して、鋼床版における疲労き裂の発生・進展過程を予測するための方法論を開発する。さらに、推定した疲労き裂の発生・進展過程に基づいて将来の修繕費用を算出するとともに、通常修繕箇所と大規模修繕箇所をそれぞれ選定するための枠組みを提案する。最後に、実際の高速道路高架橋の鋼床版を対象として、提案手法の有用性を議論する。 2)橋梁RC床版の劣化と床版直上のポットホール発生との間には相関があることが経験的に知られている。RC床版の目視点検には多大な労力と費用を要する一方で、ポットホールの発生状況は日常の道路巡回を通して確認できる。そこで、RC床版の劣化とポットホールの発生との相関関係を明示的に考慮したポアソン隠れマルコフ劣化ハザードモデルを開発した上で、目視点検の効率化や、状態依存型の点検施策への移行を視野に入れた点検スキームを提案する。具体的には、RC床版の目視点検周期を延伸する際に、日常の道路巡回で獲得できるポットホールの発生頻度を補完的情報として、延伸期間中の安全を担保する点検手法を構築する。最後に、実際の道路橋RC床版への適用を通して、提案モデルの妥当性を実証的に検証する。
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