2018 Fiscal Year Annual Research Report
ローマ帝政前期における「権力と法」の研究:皇帝・元老院関係の検討を通じて
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18J20038
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
逸見 祐太 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | ローマ帝政 / 皇帝・元老院関係 / 元老院議決 / 元老院裁判 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ローマ帝国第4代皇帝クラウディウスの治世の元老院研究に従事した。クラウディウス帝期は、帝政前期の元老院の分析を行うのに最適な時期の一つであると思われる。クラウディウス帝は同時代人によって、皇帝としての資質を疑われていた。先行研究では、近年クラウディウス帝個人の能力を再評価する傾向はあるものの、彼の治世がユリウス朝、そして帝政前期という時代を理解するうえでどのような意味を持つかという点は、アウグストゥス帝期やティベリウス帝期などと比較すると、未だ十分な検討がなされていないのではないだろうか。 クラウディウス帝期の元老院議員の活動内容は、さまざまな史料を通じて詳細に伝わっている。その中でもタキトゥスという歴史家の『年代記』から、クラウディウス帝期の元老院の活動がいかに再現できるかについて、4月に東京大学の地域院生研究フォーラムで報告した。 それ以降の研究も同じ『年代記』を主な研究材料として、クラウディウス帝期に関する研究成果をもとに、ユリウス朝の元老院のあり方を理解するよう努めた。まず第一に、修士論文で行ったクラウディウス帝期の元老院議決の分析を出発点として、ユリウス朝全体の元老院議決を分析することを試みた。この作業を通じて、クラウディウス帝期に限定された小さな研究が、帝政前期全体に関するより大きな研究へと発展する糸口が見いだせたと考えている。 第二に、元老院裁判に関する分析の下準備を行った。とくにユリウス朝における尊厳毀損罪に関する裁判を一覧した。この作業によって、本年度の元老院議決の分析を補完する元老院裁判の研究に、来年度からスムーズに取り組めるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではもともと元老院議決だけを分析し、時代ごとの皇帝・元老院関係の変化を描き出す予定であった。だが研究を進めるうちに、元老院議決だけに分析の対象を限定するよりも、元老院裁判の分析も同時に行った方が当時の政治文化をより良く理解できると考えた。 この変化に合わせて、1年ごとに各皇帝の治世の議決を詳細に分析するという方針を変更し、1年目でユリウス朝全体の議決を一覧してしまった。この作業を行ったことで、来年度を元老院裁判の分析にあてることが出来るようになったばかりでなく、元老院議決と元老院裁判とを並行して理解することが可能になった。 このように方針の変更はあったものの、当初の予定通り3年間の研究を通じて帝政前期の皇帝・元老院関係を明らかにできるという見通しそのものに変化はない。来年度に元老院裁判の分析を行い、最終年度に博士論文執筆につなげるために研究成果のまとめを行う計画である。以上から、本研究は順調に進展していると結論した。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度には、ユリウス朝の元老院裁判の分析を行う。本年度で行った尊厳毀損罪の裁判一覧をもとに、皇帝・元老院関係を分析していく。 初代皇帝アウグストゥスは内乱時代の強大な権力集中への反動として共和政期の外観を復活させようとする傾向があったが、その一環として政治と密着している刑事裁判、とりわけ尊厳毀損罪の裁判において元老院を主役を演じさせたという。そしてこの方向性は、クラウディウスをはじめとする後の皇帝たちにも引き継がれたようである。だが元老院裁判は、皇帝と元老院との結びつきが弱まるにつれて、皇帝直属の官吏による組織的な裁判制度に次第に取って代わられることとなる。このように元老院裁判は、皇帝と元老院との関係性を測るバロメーターの一つとして用いることができる。よって元老院裁判の分析は、これまで行ってきた元老院議決の分析を補うものとなるだろう。 最終年度には、過去2年間の分析結果を学術雑誌や口頭発表という形でまとめ、博士論文執筆につなげることを目指す。
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