2018 Fiscal Year Annual Research Report
現代タタール・ディアスポラにおける言語選択と言語政策の関係性に関する総合的研究
Project/Area Number |
18J20041
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
櫻間 瑞希 筑波大学, 人文社会科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
Keywords | タタール / ディアスポラ / 母語継承 / 言語状況 / 言語意識 / タタール語 / 中央アジア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、①様々な国や地域に居住するタタール人がどのように各地にコミュニティを形成し、民族語であるタタール語を継承してきたか、あるいは継承してこなかったかを明らかにしたうえで、②言語政策や教育政策が移民である彼らの民族語の継承に対し、どのような影響を及ぼしているのかを、タタール・ディアスポラの事例を通じて考察することにある。これらの目的を踏まえて、2018年度は主に以下に示す2つの作業を行なった。 (1) タタールスタン共和国がディアスポラに対して実施する対外政策の具体的な内容と実態に関する調査を実施した。具体的には、2018年10月29日から11月6日にかけてタタールスタン共和国カザン市に滞在し、政策の決定および実施にかかわる人物への聞き取り調査を行なった。のちに、タタールスタン共和国政府がディアスポラに対して実施する政策とその狙いを簡潔に整理し、カザフスタンに居住するタタール人を事例に、ディアスポラの母語継承に与えうる影響を詳しく検討した学術論文がタタールスタン共和国にて公刊された。 (2)ウズベキスタンに居住するタタール人の母語継承状況を明らかにするための聞き取り調査を実施し、その成果を口述で発表した。具体的には、2019年3月12日から19日にかけて首都タシュケントに滞在し、当地のタタール文化センターおよび民族語講座のほか、12のタタール人家庭にて調査を行なった。調査の結果からは、近年の国家語であるウズベク語中心的な社会への移行が、タタール人の言語選択にも多大な影響を与えており、とりわけ若い世代はウズベク語に慣れ親しんだ結果として、言語的な類似性からタタール語にも関心を寄せている可能性を指摘することができる。これらの成果の一部は3月16日にタシュケント国立東洋学大学にて実施された協働会議において口頭で発表したが、この調査成果に基づいた論文は現在執筆中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記「研究実績の概要」にも記したように、2018年度に計画されていた研究作業のほとんどはおおむね順調に進展した。しかしながら、2019年3月に実施したタシュケントにおける聞き取り調査は、当初の計画ではイスタンブル(トルコ)にて実施する予定であった。計画の変更理由は、政治的な理由から当地での調査の遂行が困難になったためである。このような理由から調査の実施時期に遅れが生じたため、研究成果の公表にも若干の遅れが生じている。当初の予定では、今年度中に聞き取り調査の成果を論文にまとめる予定だったが、口述発表を実施するにとどまった。これは2019年度に早急に取り組むこととする。
|
Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、主に以下に記す2点に取り組む。 (1)ヌルスルタン(旧称アスタナ、カザフスタン)およびドゥシャンベ(タジキスタン)に居住するタタール人を対象とした、質問票を用いた聞き取り調査の実施。また、タタールスタン共和国が支援対象としている、現地のタタール文化センターおよび民族語講座の運営状況の調査の実施。 (2)民族語であるタタール語を継承しなかった事例の収集。 いずれも、調査実施後には収集した資料を整理し、考察作業を進める予定である。また、2018年度に実施した調査の成果を論文等にまとめるほか、(1)と(2)で得られた成果を口述発表および論文等で公表することに努める。
|