2019 Fiscal Year Annual Research Report
交渉ゲームにおける提案過程の内生化及び提案頻度が合意分配に与える影響の分析
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18J20162
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
花登 駿介 東京工業大学, 工学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 交渉問題 / 調停 / 提案機会 / 破産問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
採用第2年度目では、研究実施計画に記載していた2つの研究が査読付き国際論文誌に受理された。交渉における調停の役割を分析した研究が Games and Economic Behavior に、交渉者の提案機会と利益の関係性を分析した研究が International Journal of Game Theory にそれぞれ受理された。 また採用第2年度目では、新しく「破産問題」に関する研究を行った。破産問題とは、複数の債権者がある遺産をどのように分配するかを考える問題である。ただし、遺産は債権額を全額返済するのに十分でなく、それぞれの債権者の債権額に応じて遺産をどのように分配するかを考える必要がある。 非協力ゲーム理論では遺産分配の交渉プロセスをモデル化することで、破産問題の分析を行う。破産問題を分析した既存研究のモデルでは、遺産の配分案を提案する権利や配分案を拒否する権利が一人の債権者のみに与えられるなど、交渉のプロセスに不自然な点があった。これを踏まえ今回の研究では、すべての債権者に資産配分案を提案できる権利があり、全員の意見よって配分を決める、より自然な交渉プロセスのモデルを構築した。 今回の研究では、構築したモデルにおいて均衡点がただ一つ存在し、その均衡点ではConstrained equal awards rule (CEA) と呼ばれる配分方法が実現することを示している。均衡点が一つに定まる交渉モデルを構築することは本研究課題の目標の一つであり、今回の研究ではこれを達成している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
私は研究課題の目標の一つとして「解(均衡)が一つに定まるような交渉モデルを構築し、提案機会と利益分配の関係性の分析を行うこと」を挙げている。 採用第2年度目では、破産問題を分析するための交渉モデルを構築した。そして、そのモデルにおいて解(均衡)が一つに定まることを示し、提案機会と利益分配の関係性を分析した。採用第2年度目の研究で構築した破産問題のモデルは、同時提案交渉ゲームに構造が近く、このようなモデルでは一般的に非常に多くの解(均衡)が存在することが知られている。一般的なモデルに反し、解(均衡)が一つに定まるモデルを構築できたことは採用第2年度目の研究の重要な成果である。この研究は既にディスカッション・ペーパーとしてまとめており、現在は査読付き国際論文誌に投稿中である。 また採用第2年度目では、以前から取り組んでいた2つの研究が査読付き国際論文誌に受理された。これらの研究についての国内・国際学会発表も複数回行った。 以上の通り、採用第2年度目では新たな研究で成果が得られ、2本の論文が査読付き国際論文誌に受理されたため、研究課題はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
採用第3年度目では、採用第2年度目に研究を行っていた「破産問題に関する研究」を発展させることを計画している。具体的には破産問題のモデルに「仲裁 (arbitration)」や「調停 (mediation)」を導入して分析を行うことを計画している。 従来の破産問題のモデルでは、債権者同士のみで遺産の分配方法を決めていた。しかしながら、現実の遺産分配交渉では仲裁や調停という制度を用いることがある。仲裁と調停はどちらも債権者以外の第三者に遺産の分配方法を判断してもらう手段である。 仲裁と調停の違いは第三者の判断に強制力があるかないかという点である。仲裁では第三者 (仲裁者) が遺産の分配方法を決め、債権者は仲裁者が下した決定に必ず従わなければならない。すなわち、仲裁者の決定には強制力がある。一方で、調停も第三者 (調停者) が遺産の分配方法を提案するが、実際にこの提案に従うかどうかは債権者が決めてよい。すなわち、調停者の提案はあくまで助言であり、強制力がない。この点が仲裁と異なる。 採用第2年度目の研究では破産問題を分析した。しかしながら、この研究では仲裁や調停については考慮していない。そこで採用第3年度目の研究では仲裁や調停を考慮したモデルで破産問題を分析することを考える。このモデルにおいて解(均衡)が一つに定まることを示し、提案機会と利益分配の関係性を分析する。
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Research Products
(6 results)