2019 Fiscal Year Annual Research Report
国際バカロレアに関する理論的・実証的研究―「知の理論」を中心に―
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18J20217
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Research Institution | University of Tsukuba |
Research Fellow |
江幡 知佳 筑波大学, 人間総合科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 国際バカロレア / 高大接続 / 比較研究 / 大学教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は高大接続制度としての国際バカロレア(IB)の汎用性について、日本を事例として検討した。検討のための観点として①日本の大学入試制度におけるIBの位置づけ、②当事者(IB修了生)からみたIBカリキュラムと日本の大学教育カリキュラムの接続、以上2点を設定した。 第一の観点から以下のことが明らかになった。IBは世界中の多くの高等教育機関が認証している高大接続のための一制度である。しかし、IBが世界中の高等教育機関から高い評価を受けているという先行研究の指摘が、日本の文脈でも当てはまるかについては検討の余地がある。なぜなら、大学はIBを積極的に入試に用いることが推奨される、という政府や国立大学協会等の指針とは裏腹に、IBを活用する大学は限られるためである。 本研究は、日本の大学入試におけるIBの位置づけを、各大学が「IBを活用した特別入試」(以下、IB入試)を導入・実施する際の意図と葛藤を中心に明らかにした。本研究は、日本の大学がIB入試の導入・実施に積極的に取り組んでいるとは言い難い状況が生じている理由として、日本において、IB修了生の進学希望先となる選抜性の高い大学は、「新しい能力重視の選抜」に分類されるIB入試を実施する場合であっても、旧来型の学力を尺度とした公平性担保の重視という「エリート選抜の論理」を保持するからである、ということを論証した。 第二の観点から、日本の大学に在学しているIB修了生へのインタビュー調査を分析することで以下のことが明らかになった。日本の大学教育の文脈に焦点を当てると、IBを履修・修了していることは必ずしも円滑な接続を保証しない。なぜなら、IBの学習を通じて獲得した力が大学教育で活かされるか否かは、大学でとられる授業方法や評価方法、ならびに学部学科(専門分野)の性質に規定され、かつIBを履修・修了したゆえの接続上の困難があり得るからである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗状況として、研究期間の1~2年目にわたり、高大接続制度としての国際バカロレア(IB)の汎用性を問うための調査の実施、ならびにその結果の分析に取り組むことができている。結果として、IBの汎用性は、各国の大学入学者選抜制度や単位制度、および学士課程教育の性質(教養教育重視か専門教育重視か)等に規定される可能性を明らかにしてきた。その成果については,既に査読付き全国誌や国際学会での発表を通じて、国内外で公表できている。加えて、今後、上記の明らかにしたことをより精緻化するために、調査対象を拡大することや、新たな観点を加えること(IB履修生・IB修了生の進路意識の形成過程)など、具体的な見通しをもつことができている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方策としては、より多角的な観点から高大接続制度としての国際バカロレア(IB)の汎用性を検討するために、調査対象を拡大する方針である。具体的には、IBのなかでも、日本語と英語でIBを履修する「デュアル・ランゲージ・ディプロマ」修了生を対象に加えること、海外の大学(米国、英国等)に在学しているIB修了生を対象に加えること等を計画している。 また、IBの汎用性を問うための新たな観点として、IB履修生・IB修了生の進路意識の形成過程を加え、彼らを対象とした調査を実施する計画である。 加えて、歴史的な観点から、IBの理念上、いかなる「汎用性」が意図されていたかも調査する計画である。
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Research Products
(5 results)