2019 Fiscal Year Annual Research Report
免疫系-腸内細菌叢結合数理モデルとメタゲノム解析による免疫応答の定量的研究
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18J20316
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
原 朱音 九州大学, システム生命科学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 数理生物学 / 自己免疫疾患 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、腸内細菌叢と免疫系との相互作用に着目し、腸内細菌叢に介入を加えることによる新たなアレルギー治療法の発見を目標としている。2019年度は、特に免疫系の動態に着目し、免疫反応の制御機構について理解するための数理モデル解析に着手した。 免疫系は腸内細菌に限らず、人体を取り囲む環境中の様々な生物・物質に曝されており、その中でも有害な非自己に対して特異的に免疫反応を起こす必要がある。このような精密な免疫系の調節機構を理解するために、その機構が破綻した状態である自己免疫疾患を題材として理論研究を開始した。自己免疫疾患の発症には、病原体などの刺激によって産生された免疫細胞が、自己抗体に対しても反応を引き起こす現象(交差反応)が鍵となると考えた。そこで、免疫反応のどの段階で起こる交差反応が、自己免疫疾患発症に大きな影響を与えるかを予測する解析を行った。その結果、免疫細胞活性化などの動態の下流で引き起こされる交差反応が、発症に大きな影響を与えると分かった。この成果については国際誌に投稿し、現在査読中である。 さらに、前年度から情報収集を開始した、概日時計制御の数理モデリングについても研究を進めた。本研究計画の目標は、腸内細菌叢への介入によるアレルギー治療法の提言であるが、腸内細菌叢や免疫系の日周変動が、時間帯によって異なる治療結果を生むことが考えられる。将来このような治療法を提言する際には、免疫系などの日周変動を加味した数理モデルを構築する必要がある。そこで、まずは代謝系における概日時計制御を題材に理論研究を行った。グルコース代謝系の概日時計制御を数理モデルで再現し、ヒトにおいて本来の休息時間(夜)に脂質の産生がピークを迎えていることを予測し、そのような条件は、エネルギー供給の恒常性を保つために重要であることを解明した。本研究については論文執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は特に免疫細胞の動態をより詳細に再現するための解析を行った。自己免疫疾患の発症の条件を記述するための解析については、論文にまとめ国際誌に投稿し査読中である。また、2018年度から予定していた通り、2019年11月から3ヶ月間オランダの大学を訪問し、免疫細胞動態の数理モデリングについて議論を行った。この滞在により今後も共同研究を続けていくための基盤を築くことができた。 さらに、研究計画の新しい要素としての、代謝系における概日時計制御の数理モデル研究については、国際誌に投稿する予定で論文執筆中である。また、国際学会で成果発表を行い、さらに国内学会でシンポジウムを企画し、実験・理論研究者を交えて議論を行った。 以上のことより、研究実施状況はおおむね順調であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度着手した自己免疫疾患の数理モデル研究を発展させ、さらに交差免疫の大きさを決定する機構を詳細に記述する数理モデルを構築し、より詳細に自己免疫疾患発症への影響を検討する予定である。例えば、自己抗原や外来抗原の量、免疫細胞数、また自己抗原と外来抗原との類似度などの要素が、自己免疫疾患にどのように影響を与えるかをシミュレーションにより解析的に明らかにする。本解析により、免疫反応の調節機構を予測する枠組みを構築することで、様々な種類の腸内細菌に曝露されている腸管免疫系における免疫反応の調節機構についても、理論研究の視点から新しい提言ができるようになると期待している。さらに、2019年度に行った概日時計制御の理論研究の結果を踏まえ、免疫系・腸内細菌叢の概日リズムを考慮した治療計画について検討することを予定している。
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Research Products
(4 results)