2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18J20599
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
川端 由子 九州大学, 歯学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 薬剤性味覚障害 / 酸味 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、酸味あるいは塩味感受性に影響を及ぼす薬剤及びその標的分子を同定し、薬剤性味覚障害発症の分子基盤を解明することを目的としている。 前年度までに、味覚に何らかの影響を与える薬剤についてマウス味蕾オルガノイドを用いて探索し、抗不整脈薬のフレカイニドにオルガノイド味細胞の分化増殖抑制作用を認めた。また、マウスの味行動応答において、フレカイニドが酸味増強作用を有する可能性を見出した。この酸味特異的な作用に着目して、今年度は引き続き、フレカイニドをマウスに長期および単回投与した場合の味行動応答の変化を詳細に調査した。フレカイニドを30日間腹腔内投与したマウスを用いて味溶液に対する10秒間リック(舌出し)回数を計測し、種々の味溶液に対する嗜好また忌避行動を評価した。その結果、フレカイニド投与群は対照群と比較して、塩酸(強酸の酸味)を有意に忌避した。一方で、スクロース(甘味)、塩酸キニーネ(苦味)、グルタミン酸カリウム(うま味)、塩化ナトリウム(塩味)、さらには酢酸(弱酸の酸味)、クエン酸(弱酸の酸味)に対する行動応答はフレカイニド群と対照群との間で差は見られなかった。また、フレカイニドの単回投与においても同様の結果が得られた。以上より、フレカイニドは長期および短期的に、酸味の中でも強酸特異的な味行動の変化をもたらすことが示唆された。 次に、舌前方部の味覚を支配する鼓索神経応答について、フレカイニド投与による影響を調べた。現在のところ、対照群と比較してフレカイニド群では、腹腔内投与30分後に塩酸に対する神経応答が増強傾向を示すという結果が得られている。一方、スクロース、塩化ナトリウムおよびクエン酸ではこのような変化は見られていない。 また、フレカイニドによる強酸特異的な酸味応答増強作用の分子メカニズムを明らかにするため、フレカイニドが作用する分子の同定に着手している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的である酸味あるいは塩味感受性に影響を及ぼす薬剤及び標的分子の同定に関して、味行動応答レベルで酸味特異的な影響を及ぼす薬剤を見い出したこと、また味神経応答レベルでの同現象が解析進行中であること、また、標的分子候補の解析に着手しているため。
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Strategy for Future Research Activity |
舌前方部の味覚を支配する鼓索神経応答について、フレカイニド投与による影響を調べる。投与量は前述の味行動応答実験で酸味への影響が確認されたものと同量を用いる。麻酔下のマウスにおいて、フレカイニドを腹腔内に投与する前と投与後2時間にわたって鼓索神経全線維束の積分波形を記録し、種々の味溶液に対する神経応答の変化を継時的に観察していく。現在のところ、対照群と比較してフレカイニド群では、投与30分後に塩酸に対する神経応答が増強傾向を示すという結果が得られている。一方、スクロース、塩化ナトリウムおよびクエン酸ではこのような変化は見られていない。引き続き、測定するマウスの個体数や味溶液の種類をさらに増やして、フレカイニドが味神経応答に及ぼす影響について詳細に解析していく。 また、フレカイニドによる強酸特異的な酸味応答増強作用の分子メカニズムを明らかにするため、酸味細胞に特異的に発現するKチャネルやHCNチャネル、および酸味受容体として最近同定されたOtopetrin-1 (Otop1)チャネルの関与について検討していく。マウス味覚器におけるこれらチャネルの免疫染色による発現解析や、新たに構築したOtop1遺伝子強制発現細胞系を用いた膜電位イメージングならびに電気生理学的解析により、フレカイニドが作用する分子の同定を進める。
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