2018 Fiscal Year Annual Research Report
Poetry and Philosophy in Giacomo Leopardi
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18J20645
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Research Institution | The University of Tokyo |
Research Fellow |
藤澤 大智 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | イタリア文学 / 認識論 / 快楽 / 詩学 / ペシミズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、レオパルディ作品の総体を、その詩人としての素質と哲学者としての素質との関係を中心として再解釈・体系化するものである。今年度は、大きく分けて三つの観点から研究を行った。①レオパルディの心像論:修士論文を再検討する形でレオパルディの認識論について考察し、その唯物主義にまつわる議論を起点として先行文献の問題点を批判検討するとともに、心像論の観点からその認識論の再解釈を行なった。これについては、イタリア言語文化学会において二回の研究発表を行なっている。②レオパルディの快楽理論とその詩作品への応用:レオパルディ哲学の核心である快楽理論については、これまで多くの研究が行われてきたが、いまだ明確な体系化はなされておらず、その歴史的位置付けをめぐる議論も不十分である。そこで、レオパルディの快楽理論においては、欲望の対象のごまかしと欲望自体のごまかしの区分がなされていることを発見し、この軸に沿って快楽理論を体系化するとともに、レオパルディと彼に先行する思想家とのあいだに様々な本質的相違があることを明らかにした。また、この研究を基盤として、レオパルディの快楽理論とその詩学との関係についても考察し、レオパルディが18 世紀イタリア文学の重要カテゴリーである「多様性」を重視して創作を行なっていることを見出した。③レオパルディのペシミズム:近年、レオパルディ研究では、ペシミストとしてのレオパルディ像が否定されるようになってきている。こうした潮流に反論する形で、19世紀後半から20世紀前半においてペシミズムという言葉にはある程度明確な共通理解が存在していたことを示すとともに、その観点からすればレオパルディはショーペンハウアーと並びもっとも純粋なペシミスト哲学者の一人であるということを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
レオパルディの認識論の研究については、期待以上の結果を得た。レオパルディの認識論を新たな観点から再構築した上で、バークリーやヒュームといったイギリス経験論の哲学者との共通点など、当初予定していなかった新たな発見も得ることができた。レオパルディの快楽理論についても、期待以上の結果を得た。新たな視点による快楽理論の体系化に成功した上、これにおけるdoloreとpenaの明確な峻別など、当初は予定していなかった新たな発見も得ることができた。当初は、レオパルディの作品を否定神学の議論に照らして捉えなおす研究も予定していた。しかしこれについては、具体的に文献を読み進めていくなかで、仮説そのものに困難があったことが判明したため、断念した。しかしその代わり、当初は予定していなかったレオパルディのペシミズムについて研究を大きく進展させることができた。そのため、総じて当初の計画以上に研究を進めることができたと自負している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、以下の6つの観点からの研究を計画している。①『ジバルドーネ』における詩と哲学の対立:レオパルディは、とくにその初期の思索において、詩と哲学を敵対関係にあるものとして考えていた。このことが、後期における詩と哲学の協働関係についての思索とどのような関係にあるのかを明らかにする。②レオパルディ哲学における想像力と詩的霊感:レオパルディは、哲学者の素質として、理性や体系的考察力だけではなく、想像力と詩的霊感を重視していた。そのことの意義を、これまでに研究を行なったレオパルディの心像論との関係から明らかにする。 ③レオパルディの対話篇における対話と声の役割:先行研究において、対話の形をとった一種の哲学論文のようにして語られることが多かった『オペレッテ・モラーリ』の対話篇を分析し、『形而上学者と物理学者の対話』等の作品を、対話者どうしのけっして論理的に解消されることのない葛藤そのものとして提示するとともに、それぞれの対話者ごとの声の差・文体的個性が、作品において本質的な役割を担っていることを明らかにする。④『ストラトンの偽書断片』研究:先行研究において、レオパルディの唯物主義哲学の心髄として語られてきたこの作品を、『ジバルドーネ』の懐疑主義を根拠に喜劇的作品として捉え直し、形而上学の破綻そのものを表現した作品として再解釈する。⑤マキャヴェッリからの影響:3・4で提示されるようなレオパルディの悲劇的思考は、おそらくマキャヴェッリの思想から引き継がれたところが大きい。そのため、卒業論文を再検討する形で両者の関係を考察する。⑥『無限』研究:『無限』は、数あるレオパルディの詩作品の中でも、おそらくその哲学的素質がもっとも大きく発揮された作品の一つである。そのため、この作品の読解することによって、レオパルディがいかに哲学的思索を詩作に取り入れていたのかを考察する。
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Research Products
(2 results)