2018 Fiscal Year Annual Research Report
低エネルギー双極子励起におけるクラスター構造の研究
Project/Area Number |
18J20926
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
四方 悠貴 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
Keywords | 低エネルギー双極子励起モード / クラスター構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主に10Beという原子核を対象として、低エネルギー領域における双極子励起モードとクラスター構造との関係性を明らかにした。先行研究ではαクラスターと6Heクラスターの2体クラスター構造による励起が議論されていたが、我々は2α+2nの3体クラスター構造による励起との関係性を議論した。3体クラスター構造の解析によってisovector(IV)型や、圧縮型の励起であるisoscalar(IS)型の双極子励起が2体クラスターの場合に比べてともに強く生じた。この低エネルギー領域における強度の増加は3体クラスターのダイナミクスが大きく寄与していることが明らかとなり、特に余剰中性子である2nクラスターの発達モードが大きな役割を果たしている。 低エネルギー双極子励起モードの候補の一つにトーラス状に渦を巻くようなトロイダルモードが考えられていた。我々の解析により10Beにおいても渦的なモードが見つかったが、10Beにおけるこの渦モードは変形した6Heクラスターが対称軸に対して回転することによって生じる振動モードであり、トロイダルモードのようにトーラスを形成しない新たなモードであることが明らかになった。また、この渦的モードは大きく変形した原子核のK量子数(物体固定系における角運動量のz成分)が1である状態に系統的に出現する可能性を提案した。 加えて、16Oにおいても4αクラスター構造の観点から低エネルギー双極子励起モードを調べた。その結果、1つめの1-状態に渦的なモードが生じることが分かった。しかし、この状態は10Beの場合に比べて変形度が小さく、また4αクラスターという対称性の良さにも起因して、圧縮型のモードが量子的に混ざることが分かった。それによってIS型の双極子励起強度が強く生じる。この解析からO同位体を調べていくうえでの足掛かりとなる結果が得られた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画では、本年度中に未知の原子核に対する手法として変分法である反対称化分子動力学法(AMD)を改良することが目的であった。AMD法は核子の自由度を独立に扱える変分法であり、クラスター構造や殻模型的構造をどちらも記述できる手法である。本年度は上述したように10Beにおいてクラスター構造と低エネルギー双極子励起との関係を詳細に調べたが、K量子数(物体固定系における角運動量のz成分)に応じて低エネルギー双極子励起モードの特徴が分かれることを見つけた。そのため、AMDにK量子数の射影を行い変分する手法を構築した。その際変形度も記述できるように拘束条件を付け加えた。これらの新しい手法の実装はあらかた終えており、実際に10Beや16Oでテスト計算を行っている最中であり、計画通り順調に研究は進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は改良したAMDを用いて、20Oを筆頭とした実験で観測されている軽い原子核に対して低エネルギー双極子励起モードの研究を行う。 前年度の研究により低エネルギー双極子励起モードはK量子数と呼ばれる物体固定系における角運動量のz成分によって特徴づけられることを明らかにした。とくに渦的なモードであるトロイダルモードはプロレート変形核においてはK=1の量子数をもつモードである。また、K=0のモードは主にαクラスターが発達する励起であり、それによって強いIS型の低エネルギー双極子励起強度が生じるということがわかった。そこで、我々はK量子数ごとに良い状態を得られるようにAMD法を改良した。AMD法における変分の際に状態を特定のK量子数に射影して変分を行えるようにした。また物体固定系で変分を行うために、変形を記述するβ,γと呼ばれるパラメータを固定するβ,γ拘束を同時に行う。 本年度ではまず10Beでのテスト計算を行い、改良したAMD法のチューニングを行う。具体的には拘束に用いた変形度のパラメーターをどこまで用いるかを決める必要がある。AMDにより得られた状態からクラスター構造の情報を明確に取り出す必要があり、クラスター模型を用いた解析の方法などを模索する。 10Beでのテスト計算の次はO同位体を対象とした研究を行う。中でも20Oは低エネルギー双極子励起が精密に測定されている原子核であり、その励起モードの理解が強く望まれている。そのため、20Oの解析を行いその励起モードをクラスター構造の観点から明らかにする。その知見を基にさらに中性子過剰なO同位体における低エネルギー双極子励起の解析を行う。
|
Research Products
(7 results)