2019 Fiscal Year Annual Research Report
情報通信技術を用いた電磁場信号処理の高度化と地下構造モニタリングへの適用
Project/Area Number |
18J20941
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐藤 真也 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
Keywords | 地磁気地電流法 / 地球電磁気 / データ処理 / 信号処理 / 地下環境モニタリング |
Outline of Annual Research Achievements |
地磁気地電流(Magnetotelluric: MT)法による,地下電気抵抗率構造の高い時間分解能でのモニタリングを実現するため,次の3点の研究をおこなった.(1)周波数領域独立成分分析(FDICA)にもとづく,測定した電磁場データに含まれる電磁ノイズの,地下のインピーダンス(MT応答関数)への影響を低減する手法を開発した.(2)自然磁場変動の空間勾配を評価する手法を開発した.(3)磁場変動の源となる,電離層電流が流れる位置の変化がおよぼす,MT応答関数のバイアスの定量的な評価をおこなった. (1)電磁ノイズの低減法について:観測データから独立な要素を分離可能なFDICAを改良し,新たな電磁場データ処理法を開発した.本手法は,従来の手法では解析が困難なほどS/N比が低い電磁場データからも,MT応答関数を高い精度で推定することに成功した.さらに,時系列長が短い場合においても,地下環境モニタリングに使用可能な精度を維持できることがあきらかとなった. (2)自然磁場変動の空間勾配の評価手法について:膨大な情報量を持つ地磁気スペクトログラム上から,その構成要素を抽出する手法を新たに開発した.本手法により抽出した構成要素と地磁気の空間勾配の関係を,数式上で証明した.実際に測定された地磁気データの解析では,抽出された構成要素がもつ空間勾配が,地磁気の観測点の空間分布と一致した.本手法を用いることで,自然磁場変動の空間勾配の評価が高い精度で可能となった. (3)電離層電流とMT応答関数のバイアスについて:地下環境モニタリングをおこなうとき,電離層電流の位置の変化により,MT応答関数が受けるバイアスを考慮する必要がある.そこで,電離層電流の位置を変化させ,地上での電磁場を計算しMT応答関数を導出した.MT応答関数が電離層電流により影響を受けない条件を,数式上・数値計算上で導出した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
地磁気地電流(Magnetotelluric: MT)法は,地表から地下数十㎞までの電気抵抗率構造を可視化できる.岩石の力学的性質や地下水・マグマなどの流体の存在位置や分布の評価にもちいられてきた.近年では,MT法を利用した,地下環境モニタリングが試みられている.しかしながら,MT法でもちいる地下のインピーダンス(MT応答関数)は,測定した電磁場データに混入する電磁ノイズの影響で解析が困難となることがある.さらに,MT応答関数は,自然磁場変動が空間勾配をもつとき,見掛上変動する.これら2つの課題を解決するため,3つの研究をおこい,それぞれ以下の成果をえた.(1)電磁ノイズの,MT応答関数への影響の低減する手法を開発した. S/N比が低い電磁場データからも,MT応答関数を高い精度で推定することが可能となった.さらに,時系列長が短いデータからも,時間的変動が議論可能な精度でMT応答関数を導出することに成功した.(2)地磁気スペクトログラム上で,自然磁場変動の空間勾配を評価する手法を開発した.実際に測定された地磁気データに本手法をもちい,地磁気の空間勾配を正確に評価することに成功した.(3)磁場変動の源となる電離層電流が,流れる位置の変化がおよぼす,MT応答関数のバイアスの定量的な評価をおこなった.MT応答関数が電離層電流により影響を受けない条件を,数式上・数値計算上で導出した.これら3点からなる研究成果をそれぞれ,国際誌へと投稿し査読をうけている.また,関連する内容をふくめ,会議で筆頭著者として7件発表をおこなった.以上の3点からなる研究成果をもちいて,長期間の測定データを解析することで,高い時間分解能かつ地下に由来するMT応答関数の時間的変動を検出できることが予想される.そのため,現在までの進捗状況は「おおむね順調に進展している」と考えることが出来る.
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでに,以下の3点の研究成果がえられた.A)測定データに混入した電磁ノイズの地下のインピーダンス(MT応答関数)への影響を低減する手法を開発した.B)自然磁場変動の空間勾配の評価手法を開発した.C)磁場変動の源である電離層電流の位置の変化により,MT応答関数がうけるバイアスの定量的な評価,に成功した.それぞれの成果について,現在国際誌へと投稿中であり,受理されるよう論文を適宜修正する. 上述の成果をもちいることで,電磁ノイズや自然磁場変動の空間勾配によるバイアスの影響を低減させることができる.地下の状態を正確に反映したMT応答関数の時間的変動の議論が可能となる.そこで,地磁気観測所で測定された長期間の電磁場データを,いくつかの区間に分割する.それぞれの区間から,開発したノイズ低減法をもちいて,MT応答関数を導出する.そのMT応答関数のなかから,自然磁場変動の空間勾配によるバイアスをうけていないものを抽出する.地下の状態を正確に反映するMT応答関数の時間的な変動を導出する.変動が認められた場合はその変動の原因について議論をおこなう.たとえば,降雨などのように表層付近に変化が生じたとき,MT応答関数が変動する現象(Galvanic Distortion)は広くしられている.降水量とMT応答関数の時間的変動を比較し,Galvanic Distortionによるものか議論をおこなう.分割した各区間の長さを変動させ,どの程度のサイクルでMT応答関数の時間的変動が発生しているかを議論する.時間的サイクルの長さが,降雨による表層の変化と矛盾がないことをしめす.変動がみられない場合においては,これまでに得られた研究成果を応用することで,ノイズや電離層電流の影響をうけず安定的にMT応答関数を導出できることをしめす.以上の内容を会議で発表したのち,論文として投稿する.
|