2018 Fiscal Year Annual Research Report
A study on the no-arbitrage condition and completeness of market models based on infinite dimensional stochastic analysis
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18J20973
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
濱口 雄史 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 無限次元マーケットモデル / 後退確率微分方程式 / 時間非整合性 / 前進後退確率微分方程式の流れ |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度では、主に二つの研究成果がある。 第一に、無限次元マーケットモデルにおける近似的ヘッジ戦略を特徴付ける無限次元後退確率微分方程式の可解性、およびその解の有限次元近似に関する結果を証明した。この結果により、有限次元モデルにおける局所リスク最小戦略が、無限次元モデルにおける局所リスク最小戦略に収束することが従う。有限次元マーケットモデルにおける投資戦略の無限次元マーケットモデルにおける投資戦略への収束に関する先行研究として、効用最大化戦略は一般に収束し、優ヘッジ戦略は一般には収束しないことが知られている。自身の結果は、上の先行研究とは異なる最適戦略の概念である局所リスク最小化戦略の収束を保証するものである。また、無限次元マルチンゲールによって駆動する後退確率微分方程式の可解性および有限次元近似に関する結果は、一般的な非線形の枠組みにおいて成立するため、それ自体数学的に意義のある結果である。 第二に、時間非整合的な選好を持つ投資家の効用最大化問題への応用を念頭に、「前進後退確率微分方程式の流れ」を定式化し、その短時間可解性を証明した。この方程式系によって時間非整合的な選好をもつ投資家の均衡戦略が特徴づけられることがいくつかの先行研究で報告されているが、その可解性は未解決であった。私は、非マルコフかつ非線形な設定においてこの方程式系を考え、均衡解の概念を定義し、短時間可解性を証明した。その証明では、まず時間区間を有限分割し、「離散的な流れ」を考えることにより有限次元の方程式を考えた。その方程式の可解性を示した後、時間区間の分割を細かくした極限として、元の「流れ」の均衡解が得られることを示した。この近似結果は、解析が困難な前進後退確率微分方程式の流れの数値計算における一つの指針になり得るという点で意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度では、無限次元マルチンゲールによって駆動する後退確率微分方程式の可解性、およびその有限次元近似に関する結果を得た。この結果は、当該研究課題である無限次元マーケットモデルにおける投資戦略の数学モデルの研究に応用可能である。具体的には、この結果により、無限次元マーケットモデルにおいてリスク最少化の観点で最適な戦略が記述され、さらにその戦略の適当な有限次元マーケットモデルにおける最適戦略による近似可能性が保障される。本結果は、先行研究をふまえながら、従前とは異なる最適戦略に関する知見を与えるもので、数理ファイナンスおよび確率微分方程式の一般論において興味ある結果であると考えられる。 さらに、上の結果と独立して、時間非整合的な選好を持つ投資家の効用最大化問題への応用を念頭に、「前進後退確率微分方程式の流れ」を定式化し、その局所的な可解性および有限次元近似の結果を証明した。これは異なる時間間隔で定義された非可算無限個の後退確率微分方程式を含む新しいタイプの方程式系で、確率微分方程式の一般論の観点からも興味深い対象であり、具体的な応用の可能性を持つものであると考えられる。 これらの結果をもとに論文を二本執筆し、学術誌に現在投稿中である。 以上のように、本研究課題はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度に得られた第一の結果である、無限次元マルチンゲールにより駆動する後退確率微分方程式に関する結果については、具体的なマーケットモデルにおける明示的な解表現と収束の速さの検証を行う。当該年度で得られた結果は、一般的な設定における方程式の可解性と有限次元近似可能性を保証するが、その具体的な解の構成については議論されていない。数理ファイナンスの実学的な性質上、このような具体的かつ定量的な表現は早急に検証する必要がある。また、ヒルベルト空間上の後退確率微分方程式との関連性について議論する。これにより、異なるモデル設定における投資戦略の数学的関連性が明らかになると考えられる。 当該年度に得られた第二の結果である、前進後退確率微分方程式の流れに関する結果については、現在の局所的な可解性の結果を用いて、大域的な可解性を検証する。同時に、時間非整合的な投資家の効用最大化問題への応用可能性についても議論を進める。 当該年度の研究において、投資戦略の数学モデルの定式化に関する二種類の方程式を調べた。第二の対象である前進後退確率微分方程式の流れに関しては、当該研究の「無限次元マーケットモデル」の枠組みと直接的には関連しないが、これまでに解析が困難とされていた、時間非整合的な選好を持つ投資家の効用最大化問題を解く上で、非常に重要な研究対象である。今後は、この時間非整合的な制御問題に重きを置いて、そこに現れる無限次元の構造に着目しつつ、方程式の諸性質の研究を推進していく。
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