2018 Fiscal Year Annual Research Report
社会的養護体制の形成と展開: 日本と諸外国の比較歴史分析
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18J21039
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
成澤 柊子 東京大学, 法学政治学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 社会的養護政策史 / 里親政策 / ホスピタリズム論 / 専門性 / 私人性 / アメリカ児童局 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,戦後から1970年代末までの日本の社会的養護政策の歴史を中心に研究を行い,行政共同研究会及び東京大学行政学研究会にて口頭発表を行った.国家は家庭とその代替である社会的養護をどのように位置づけてきたか,国家は社会的養護下の子どもに措置費や里親か施設かといった養護形態に関してどのような生活を提供してきたかの2点を検討した結果,「児童の健全育成のための家庭」と「専門的な施設」という児童局の構想は児童福祉行政の強化に役立ったものの,養護施設と里親という家庭の代替の忌避に繋がり代替を必要としていた子どもの福祉を損ねるとともに,代替下の子どもは「家庭」に近い環境から遠ざけられたという結論に至った.さらに,上記発表に基づき,里親制度は私人の家庭が社会的養護という公的責任を担う公私の交錯する場であるという先行研究の視点を踏まえて1960年代から70年代にかけての里親政策の展開に焦点を当てて検討した.その結果,同時期の里親振興の停滞・不振の理由として「家庭」性の積極的評価よりも単なる「私人」であるという消極的な位置づけが強く作用した可能性が明らかになった.また,第2次世界大戦中期から終戦後にかけてアメリカの児童局が児童福祉政策を通じて自由と民主主義の世界の実現に動いていたという先行研究をもとに,日本の児童福祉政策の創成期のアメリカ児童局からの影響力を検討するため,アメリカの国立公文書館新館と議会図書館を訪問し資料の閲覧・収集を行った.その結果,日本の児童福祉の創成期にアメリカ児童局が果たしたのは二次的な役割に留まるものの,アメリカ児童局は各国の児童福祉関係者の訪問を受けており,ホスピタリズム論を含む児童福祉に関する最新の情報の発信地として機能していたことが分かった.児童福祉の国際的な潮流をアメリカ児童局が作り出し,間接的に日本に影響を及ぼした可能性を指摘できる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
学会発表及び1960年代・70年代の里親政策の検討を通じて,日本の社会的養護政策の歴史を左右してきた重要な鍵として,「家庭性」以外に「施設の専門性」と「里親の私人性」という対比が存在することを発見でき,今後の分析の視点が得られた.また,訪米調査により,アメリカ児童局を中心とする戦後の児童福祉政策の国際的な潮流の存在の示唆が得られた.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,まず日本の特殊性を生み出した要因として,GHQ側・日本側それぞれの占領期の児童福祉政策の構想,政策実施における「公」に対する「私」の位置づけ,日本の「家」制度と里親政策の関係の有無の3点について検討する.また,戦後復興と冷戦の開始という時代状況を踏まえて国際的な児童福祉政策の潮流についてさらに調査を行う.
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Research Products
(2 results)