2018 Fiscal Year Annual Research Report
社会主義期ハンガリーの国立民俗アンサンブルにおける文化ナショナリズム
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18J21122
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松井 拓史 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | ハンガリー / 民俗アンサンブル / 社会主義 / 文化ナショナリズム / 民俗舞踊 / 民俗音楽 / 東欧文化史 / 冷戦 |
Outline of Annual Research Achievements |
6月21日から8月9日,10月29日から12月11日の2度,計約3ヶ月間ブダペストに滞在し,ハンガリー国立セーチェーニ図書館(OSZK)やメディアサービス支援信託基金(MTVA)でのアーカイヴ調査,およびアンサンブル元メンバー等7名へのインタヴュー調査を行なった。これにより,次のことを明らかにした。 まず,アンサンブルとそのパフォーマンスが持つ明らかな政治性に対して,メンバー間で表立った議論がなされなかったということ。1952年,アンサンブルは108日間におよぶソ連・中国ツアーを行うが,各地の民俗アンサンブルや政治的要人(毛沢東や周恩来)との交流のためのパフォーマンス(「プロトコル公演」)を,メンバーはその政治性を意識せず淡々とこなしていた,という証言を得られた。また,1959年に『革命の光景』と題された社会主義的題材を集めたプログラムが制作されるが,これについてもアンサンブル内からその政治性に関する意見は特にみられなかったということである。これはメンバーが政治的領域に無関心であったというよりは,むしろそこに意見することの無意味さや危険さを認識していたことを示すように思われる。 むしろ彼らの議論の的となったのは,プログラムの芸術性と真正性であった。初代芸術監督のラーバイ・ミクローシュが,フォークロアに依拠しながらも自由な制作を行うという活動方針であったのに対し,3代目監督のティーマール・シャーンドルはラーバイの方針や作品を批判し,フォークロアの真正性を重視する制作方針を掲げ,アンサンブルの刷新をはかった。これに対しメンバーの大半が不満を表明し,アンサンブル内部で深刻な対立状況が発生していたという証言を得た。こうした事態は「ソ連の社会主義/ハンガリーの文化ナショナリズム」という二項対立的理解の枠を超えており,冷戦期の文化研究が持つ視野をより広く,豊かにする事例である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画を若干修正したが,調査・研究は順調に進んだ。 インタヴュー調査で予想を超える数の元アンサンブルメンバーの協力を得られたこと,ハンガリー国立民俗アンサンブルの本拠地である「伝統の家」で大量の未開封資料を発見したことにより,想定した以上の資料を入手できた。今年度はそれらの整理・分析を集中的に行い,研究成果の公開(論文執筆および口頭発表)は次年度に行うこととした。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画を修正し,7月から1年間ハンガリーで調査を行うこととする。特に,アンサンブル関係者へのインタヴュー調査,および「伝統の家」に所蔵される大量の未開封資料の整理・分析を引き続き行う。 研究成果の公開に関して,本年度は論文執筆を主に行い,日本語,英語,ハンガリー語の学術誌(『音楽学』,Acta Ethnographica Hungarica,Magyar Zene)へ投稿する。
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Research Products
(2 results)