2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18J21311
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
上野 一樹 東京工業大学, 理学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 分子波束ダイナミクス / 画像観測 / 分子分光学 / マイクロ波化学 / コヒーレント制御 / フェムト秒化学 / イオンイメージング / 不均一化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
共鳴的に励起させた分子振動の実空間観測は、これまでなされたことがない。本研究では、これを実現することを目的として方法論と装置開発を行う。研究初年度である平成30年度では、方法論を確立するためにシミュレーションプログラムの開発を行った。 今回対象とする分子振動は、基本的な有機化学反応であるSn2反応にも関わりのある反転振動を対象とした。反転振動の中でもアンモニアの反転振動は、MASERにも利用されている重要な反応である。エネルギー空間における分光観測はこれまで多数報告があるが、その一方で実空間観測はこれまでなされていなかった。 分子の空間配座を対象とした実空間観測の手法として、クーロン爆発イメージング法が挙げられる。この手法では主に分子配向に対する観測が行われていた。アンモニアの反転振動でも、大きくアンモニアの向きが変化することが予想されており、実空間で振動していくアンモニアを可視化できると着想した。 アンモニアの反転振動に共鳴するマイクロ波を照射すると振動波束が生成される。初期量子状態の違いにより逆位相な波束も混在してしまうため、波束生成時には量子状態が分離されている必要がある。また、マイクロ波を照射する際は、イメージング観測用の電極を通過させる必要があるため、マイクロ波が歪むことが懸念された。これらの問題を解決することで、本研究の目的である分子振動の実空間観測が達成可能であると想定している。 量子状態の分別には不均一電場を利用する。対応するシミュレーションプログラムの作成を行い、量子状態が分離することを確認しており現在装置の実装に向けた交渉を行っている。一方でマイクロ波の検討はまだ十分に行えていない。二次元空間でシミュレーションを行ったところ、電極により電場が歪むことが示唆されており、今後電極形状を含めた最適化が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概要にも書いたとおり、本観測実験を実現するためにはマイクロ波照射とアンモニアの量子状態選別が不可欠である。不均一電場を用いたアンモニアの量子状態選別は、過去にも実験例が多くあるが、その多くが6重極型の量子状態選別器であった。この量子状態選別器では、観測対象とする量子状態をよく集めることができる一方で、ポールの配列や実装が非常に難しいという難点もある。 そこで、本研究ではデフレクタータイプの電極を用いた量子状態選別器を導入することにした。この量子状態選別器は、量子状態ごとに進行方向を曲げることで量子状態を分離する装置であり、電極が2つで済む点から作成やメンテナンスが簡便であることが期待される。シミュレーション計算を行い、デフレクタータイプの電極を用いることでアンモニア分子の飛行軌道を曲げることで振動の量子状態を分離できることを確認している。 この装置を作るに当たり、所属しているグループではほとんど知見がなかったため、韓国で同様の電極を用いた実験を行っているグループを訪問し、現地で見学を行い装置の細かな設計や運用について情報収集を行った。 ここで得た情報をもとに設計の修正を行い製作工場との図面のやり取りを開始している。早ければ今年度前半には装置が完成して試験的な実験を開始する予定である。この実験では、アンモニアの電子遷移に共鳴する周波数のレーザー光を利用したイオン化実験を行う予定であり、実験に必要な光学素子の収集も開始したところである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、最初に終わらせたい内容として、電極の実物化がある。図面を通して工場と電極についてのやり取りを開始しているわけだが、まだ実際に電極として納品されるまでには時間がかかることが予想される。そのため、これについての検討が最も優先事項の高い事柄になると予想される。 また、これと同時にマイクロ波の照射経路も問題になると予想される。現在マイクロ波のシミュレーションを行うためにシミュレーターの作成を開始しており、3次元空間への拡張と、GPUを利用するような拡張を行う予定である。これにより、マイクロ波電場の正確なシミュレーションができる他、計算の高速化も見込めるものと考えている。 現在マイクロ波を照射する機構として2つほど様式を検討している。一つはホーンアンテナとプラスチックレンズを組み合わせたレンズアンテナ系であり、これを作成するための道具についても収集を開始している。また、もう一つの様式はマイクロ波を閉じ込めるようにイオンレンズ全体を囲むような配置を行うことであり、こちらではイオンレンズ全体を含めた最適化を検討していく必要がある。 これらの検討と同時に、真空中に配置する素子を入れるためのチャンバーについても検討を進めていく予定である。マイクロ波の照射方法によるところもあるが、レーザーを通過させるポート、分子やイオンが通過するポート、マイクロ波が通過するポートの計6つほどポートが必要となると考えられる。グループが所持しているチャンバーで対処可能でなかった場合は、設計と発注が必要となるため、電極作成を詰める傍らチャンバーの設計も行う必要がある。
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