2018 Fiscal Year Annual Research Report
1930~40年代の薩摩琵琶の音楽実態とその社会的位置づけ:戦争の影響に着目して
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18J21390
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
曽村 みずき 東京藝術大学, 音楽研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 薩摩琵琶 / 近代琵琶 / 戦争 / 音楽学 / 日本音楽史 / 近現代 / レコード / 楽曲分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、(1)文献資料調査、(2)音源資料調査を行った。 (1)では、①琵琶界内部の視点、②琵琶界外部の視点それぞれを把握する資料調査を進めた。①では、琵琶愛好家向けの雑誌『水声』『琵琶新聞』の調査に取り組み、戦争を題材にした新作琵琶歌の発表や演奏会情報に重点をおいて記事を収集した。とりわけ新作琵琶歌については、薩摩琵琶・筑前琵琶問わず近代琵琶界全体で同時代物のレパートリーの増大を図る動きがみられた。②では、一般新聞記事の調査として、本研究の対象期間である1930年1月1日~1949年12月31日の『読売新聞』『朝日新聞』の調査を行った。演奏会広告やラジオで放送される楽曲の詞章を掲載した記事が散見されたほか、連日琵琶界の動向を報道する記事や戦争を題材にした琵琶歌を発表することへの提言もみられ、琵琶界への関心がうかがえた。 (2)では、1930~40年代の近代琵琶(薩摩琵琶・筑前琵琶)のSPレコード発売状況を明らかにするため、国立国会図書館所蔵の各レコード会社の月報・総目録を調査し、近代琵琶のSPレコード発売目録を作成した。発売楽曲は古典曲が中心ではあったが、同時代の戦争を題材にした楽曲も発売されており、また戦争物を多く収録する傾向のある演奏家も見出せた。 研究発表としては、(2)の成果について東洋音楽学会第69回大会にて口頭発表を行い、近代琵琶のレコード発売曲数の推移・レコード会社専属の演奏者・時局物レコードの三観点に着目して、当時の近代琵琶楽の受容について考察した。以上のSPレコード発売調査は、本研究で取り組む楽曲分析で対象とする音源資料調査の予備調査として進めたが、発売状況の調査結果から、当時の近代琵琶楽の受容を考察する上で重要な一つの基礎調査であったことが再認識された。 他に修士論文の内容について、口頭発表3件、論文発表1件を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で述べた通り、近代琵琶のSPレコード発売調査から得られる情報は、当時の琵琶楽の受容を示す重要な基礎資料となると考え、当初の予定を変更して調査を進め、成果発表を行った。また本調査により、次年度以降の楽曲分析への下地を固めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究では、対象時期における琵琶界の戦争からの影響に注目したが、実際には周辺諸文化との関連を通して琵琶界が展開した状況があった。これをふまえて、今後は戦争と琵琶との関連にも注視しつつ、広い視野で当時の琵琶界の状況を捉えることを意識して調査を進めたいと考えている。先行研究の精読を行いながら、具体的には以下のように調査を進める。 (1)文献資料調査では、未調査分の①『琵琶新聞』、および②一般新聞記事として『毎日新聞』の調査を進める。また②については、さらに調査対象を拡大させて、音楽雑誌記事等の調査にも取り組み、近代琵琶楽の社会的な位置づけを多角的に捉えていく。 (2)音源資料調査では、まず本年度作成したSPレコード発売目録を参考に、SPレコードの所蔵状況を確認する。そのうえで、戦争を題材にした新作曲と、同一演奏家が戦前・戦後にまたがる複数音源を残した楽曲という二通りの分析対象楽曲を選定し、採譜作業に取り組み、楽曲分析を進める。
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Research Products
(5 results)