2018 Fiscal Year Annual Research Report
分配的正義の合意形成を支える認知・神経メカニズムの解明
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18J21498
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
上島 淳史 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 分配の正義 / リスク下の意思決定 / 合意形成 / 発話解析 / 認知過程 |
Outline of Annual Research Achievements |
社会的分配の意思決定と深く関連するリスク下の意思決定における認知・神経基盤を明らかにした共著論文を発表した (Ogawa, Ueshima, Inukai, & Kameda, 2018)。この論文では、自己利益のために行うリスク決定では最悪の結果が注目されるのに対して他者利益のために行うリスク決定では期待値が注目されることを、右側頭頭頂接合部における脳活動や、意思決定中の情報処理過程から明らかにした。 第三者的立場から行う分配の意思決定に関する2つの実験を実施した。1つめの実験からは、人々が熟慮することによって、恵まれない人に利益をもたらすこと(マキシミン分配)と平等性を追求すること(平等分配)を区別するようになる可能性が明らかになった。2つめの実験からは、他者との合意形成を経験した人々は、平等分配よりもマキシミン分配を支持するようになる傾向が示唆された。また、このような合意形成の経験から生じる分配選好の変化は、合意形成の過程で最も恵まれない人の利益が中心的な議題となることと関連している可能性が、合意形成時の発話を解析することによって明らかになった。以上の結果は、最も恵まれない人々に対するマキシミン的な配慮が、個人的に熟慮する場合と社会的相互作用場面の両方の場面において頑健であることを示唆している。現在、各実験について眼球運動計測を伴う実験やウェブ調査を行いさらなる追加的検討を進めている。 これらの研究成果の一部を、日本社会心理学会第59回大会、日本人間行動進化学会第11回大会(若手発表賞受賞)、日本行動経済学会第12回大会(行動経済学会ポスター報告奨励賞(一般部門)受賞)、第22回 実験社会科学カンファレンス(ポスター賞受賞)等で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分配の意思決定と深く関連するリスク下の意思決定について実験を行い学術論文として出版することができた。論文では、自己利益のためのリスク決定では最悪の結果に対して右側頭頭頂接合部の活動が関連する可能性を明らかにすることができた。また、意思決定プロセスの初期段階において、最悪の結果がどの程度の損失をもたらすかについての情報を得ようとする認知情報処理パターンが見られた。一方で、他者利益のためのリスク決定では、同じ脳部位の活動がリスク決定の期待値と関連しており、情報処理パターンも同様の傾向を示していた。これらの結果は、自他それぞれにとってどのようなリスク水準が適切かを決定するという重要な社会的意思決定について示唆を与えるものと思われる。 加えて、今年度は2つの実験を行うことができた。熟慮過程と分配選好の関係を調べた1つめの実験では、平等選好と比べてマキシミン選好が頑健であることを示唆するデータが得られた。2つめの合意形成に関する実験では自然言語処理の手法を用いることで人々が分配の意思決定について合意形成する過程でどの程度マキシミン的な配慮を示しているのかを定量化することができた。 行動経済学、人間行動進化学、実験社会科学などの複数の分野の学会・カンファレンスから研究成果に対して発表賞が与えられた。 以上の理由から研究がおおむね順調に進展したと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究から、表面的には類似している平等主義とマキシミン主義の差異が熟慮や合意形成を通じて明らかになることが示唆された。特に社会効率をどの程度配慮するかという点において平等主義とマキシミン主義が異なる可能性が明らかになりつつある。現在、この点についてより直接的に検討するために眼球運動計測装置などを用いた追加的検討を進めている。 また、合意形成を経験することで個々人がマキシミン分配を好むようになる可能性も明らかになった。現在このような合意形成による選好の変化が、どの程度持続し得るかについて追加検討を進めている。
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