2018 Fiscal Year Annual Research Report
次世代人工内耳の開発:赤外光レーザーを用いた音声認知の再建
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18J21644
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
玉井 湧太 同志社大学, 生命医科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 赤外光レーザー / 人工内耳 / 聴性脳幹反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、外科手術を必要としない、赤外光レーザー人工内耳の開発である。現在、我が国では補聴器を用いても言葉の聞き取りが困難な高度難聴者が約15万人存在する。高度難聴者の聴覚再建方法として、人工内耳の装用が挙げられる。しかし、人工内耳は電極を蝸牛内に挿入する侵襲性の高い外科手術を行う必要がある。そのため、実際に人工内耳を装用しているのは、高度難聴者のわずか数%程度である。赤外光レーザーによるレーザー刺激は、電気刺激とは異なり、生体外のレーザー刺激プローブを組織に接触させることなく神経を刺激できる。本研究では、レーザー刺激を人工内耳に応用することで、イヤホンのように気軽に装着可能な人工内耳の開発を目標として実験を行った。具体的には、外耳道から鼓膜を介して蝸牛神経を刺激する経鼓膜レーザー刺激方法を確立した。 音刺激(クリック音)と経鼓膜レーザー刺激(パルスレーザー)を提示した時の蝸牛応答を記録した。音刺激では、刺激を提示してからl ms以内に有毛細胞由来の蝸牛マイクロフォン電位(CM)が生じ、1-4 msの間に蝸牛神経由来の複合活動電位(CAP)が計測された。レーザー刺激を提示した際には、CMはほとんど計測されずに、CAPのみが、刺激提示後1-4 ms後に計測された。この結果は、経鼓膜レーザー刺激が、有毛細胞をバイパスして蝸牛神経を直接刺激したと考えられる。人工内耳装用者の対象となる感音性難聴者は、有毛細胞に障害を持っているが、蝸牛神経は機能する。このことから。経鼓膜レーザー刺激は感音性難聴に対して有効であると考えられる。 また、本研究では、経鼓膜レーザー刺激方法の安全性についても評価した。1時間の連続レーザー照射を提示することで生じる蝸牛応答の変化は、統計学的に有意の変化ではなかった。この結果は、少なくともレーザー刺激が急性の障害を生じさせないことを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度では、赤外光レーザー人工内耳の刺激方法の確立に取り組んだ。経鼓膜レーザー刺激は外科手術を必要とすることなく聴覚末梢(蝸牛神経)を刺激できる。そのため、動物の「知覚・認知」を評価するための行動学的な実験との組み合わせが比較的容易である。この研究成果を基に実施される次年度以降の研究によって、レーザー刺激が生み出す「知覚・認知」が解明されることが期待される。以上のように当該年度において期待通りの成果が得られたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は、レーザー刺激が誘発する「知覚・認知」について検討する。当該年度の結果を踏まえて、経鼓膜レーザー刺激方法により覚醒下のスナネズミに赤外光レーザーを照射する。レーザー刺激を被験体がどのように知覚しているかを行動学的に評価する。この実験により、レーザー刺激を用いて聴覚知覚を生み出すための刺激パラメーターの同定が期待される。
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