2018 Fiscal Year Annual Research Report
ヒッグス粒子と第二世代フェルミオンとの結合定数測定による標準模型の検証
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18J21699
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
川口 智美 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | ヒッグス粒子 / LHC-ATLAS実験 / 湯川結合定数 / μ粒子検出器 / トリガー |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒッグス粒子のμ粒子対崩壊(H→μμ)の観測は、μ粒子対の不変質量分布を測定し、Zボソンのμ粒子対崩壊による膨大な背景事象の中からヒッグス粒子による125 GeV付近のピークを観測することにより行う。そのため、μ粒子対の不変質量分解能の改善、および安定なデータ取得による統計量の増加が重要となる。 本年度は、以下の2つのことを行なった。 1)μ粒子対の不変質量分解能の改善 不変質量分解能を悪くする原因の一つとして、光子を放出したμ粒子を含む事象の不変質量が125 GeVより小さいことがある。シミュレーションを用いた解析によって、H→μμ事象のうち約18%が光子を放出したμ粒子を含んでおり、それによりμ粒子対の不変質量分布は不変質量が小さい領域にテールを持つ。私は、光子を放射したμ粒子に光子の運動量を加える補正を行う手法を確立した。その際に、事象中には平均約20本の他の崩壊点由来の光子が存在するため、その光子を間違って選別することを抑制しつつ、μ粒子が放射した光子を優先的に選別するために光子の選別手法を光子のエネルギーやμ粒子と光子の方向に着目し、最適化を行った。確立した補正によって、光子を放出したμ粒子を含む事象において、μ粒子対の不変質量分布の平均値が120 GeVから125 GeVに、標準偏差が7 GeVから5 GeVに改善し、4.3%の測定感度向上が期待できることを示した。この成果を、2018年9月および2019年3月に行われた日本物理学会にて報告した。 2)μ粒子検出器のオペレーション μ粒子検出器の一つであるThin Gap Chamber (TGC) 検出器のエキスパートとしてCERN研究所にてμ粒子検出器のオペレーションに貢献した。これにより、データ取得効率95.7%の安定したデータ取得を行うことができ、積分ルミノシティ約140 fb-1のデータを取得した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
データ取得に直結するμ粒子トリガーの安定した運転に関しては、現場で検出器やトリガーのモニタリング、性能確認、およびメンテナンスを積極的に行なうことで、データ取得効率95.7%の安定したデータ取得を行うことができ、積分ルミノシティ約140 fb-1のデータを取得することに成功した。シミュレーションサンプルを使用したH→μμ信号事象の測定感度向上については、光子を放射したμ粒子に光子の運動量を加える補正を確立し、その補正によって、4.3%の測定感度向上が期待できるという結果を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究期間では、ヒッグス粒子のμ粒子対崩壊の観測の最終結果の導出にむけて、シミュレーションや信号領域周りのデータを用いた解析を詰めるために、以下の2 点を行う。 1)背景事象および信号事象のμ粒子対の不変質量分布のモデル化 実データを用いてピークを観測する際に、背景事象および信号事象のμ粒子対不変質量分布をモデル関数でフィットするため、モデル関数の妥当性は本解析において重要である。先行研究では、モデル関数として、背景事象に関してはブライト・ウィグナー関数とガウス関数の畳み込み、信号事象に関してはクリスタル・ボール関数とガウス関数の足し合わせで表される関数を使用している。しかし、μ粒子に光子の運動量を加える補正手法の導入によって背景事象および信号事象のμ粒子対の不変質量分布が変化する。本研究では、先行研究のモデル関数の妥当性を確認し、他の関数の導入を検討する。 2)すべての系統誤差の見積もり 導入した補正やμ粒子対不変質量分布のモデル化の不定性以外にもμ粒子の効率(トリガー、ジェット分離、識別、再構成効率)など解析を行う上で評価すべき全ての誤差を評価する。
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Research Products
(2 results)