2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18J21777
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
森岡 真 広島大学, 医歯薬保健学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | イノシトールリン脂質 / リゾリン脂質 / Phosphoinositides |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は「新規イノシトールリン脂質lysophosphatidylinositol-3,4,5-trisphosphate(LPIP3)の生理機能解明」である。この目的の遂行のために、当該年度では「LPIP3産生機構の解明」、「培養細胞株のPIP3・LPIP3分子種によるクラスター解析」を計画した。 〈LPIP3産生機構の解明〉LPIP3がアシル化・脱アシル化によりphatidylinositol-3,4,5-trisphosphate(PIP3)と相互変換される反応を想定し、ホスホリパーゼA1/2(PLA1/2)を過剰発現させた細胞を用いてPIP3とLPIP3レベルへの影響を検証するスクリーニングを行った。その結果、過剰発現によって対照群と比較して有意に細胞内LPIP3量が増加するPLAを同定した。前年度の結果と併せると、リゾイノシトールリン脂質(LPIPs)同士のリン酸化/脱リン酸化経路に加えて、イノシトールリン脂質(PIPs)からの脱アシル化によるLPIPsへの変換経路が存在することが明らかになった。これらのLPIP3代謝経路の解明は国内外通じて初めてであり、非常に意義のあるものとなった。 〈培養細胞株のPIP3・LPIP3分子種によるクラスター解析〉本研究ではPIP3・LPIP3をアシル基の炭素鎖長と不飽和結合数でさらに分類している。31種類の乳がん細胞株を用意し、PIPsレベル・LPIP3レベルを測定した。その結果、細胞株をPIP3及びLPIP3のアシル鎖によって分類できることが明らかになった。これに加えて乳がん細胞株からRNAを抽出し、RNA sequencingを行った。乳がん細胞株の遺伝子発現データを入手したことで、イノシトールリン脂質のアシル鎖分布を決定する因子及びアシル鎖によって影響を受ける生命現象を解明することが可能になった。現在、遺伝子発現レベル、変異情報、PIP3・LPIP3アシル鎖クラスターを踏まえた解析を行っている。これによりLPIP3の生理機能の解明に向けて研究が大きく前進した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画していたLPIP3を産生するPLAの同定が、PLA過剰発現によるスクリーニングによって完了した。これらの酵素がPIP3を基質とするのはこれまでに報告がなく、新規性が高い。さらにこの結果はPIP3からLPIP3への変換だけでなく、そのほかのPIPsからLPIPsへの変換にPLAが関与していることを示唆している。LPIP3の脱アシル化による新たな代謝経路を明らかにしたことはLPIP3の生理機能を解明することを目的とする本研究において重要な発見である。 当初予定していたABCトランスポーターを主体としたLPIP3の細胞内外への輸送機構の解明に遅れが見られている。しかしその一方で、計画になかった乳がん細胞株のPIPs・LPIP3レベルの測定を行った。その結果、PIP3・LPIP3を内包する細胞株が複数発見され、乳がん細胞株をアシル鎖によって分類することが可能となった。乳がん細胞株のRNA sequencingの結果と併せることで、LPIP3の生理機能を解明する足がかりとなることから、この結果は本研究において大きな進展であるといえる。 当初の計画から実行できなかった部分はあるが、それに変わる発見があったことから、進捗状況としては「おおむね順調に進展している」と評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
第2年度のスクリーニングによって同定されたPLAを発現抑制もしくは遺伝子破壊することによってPIP3及びLPIP3レベルの変動を測定する。LPIP3が産生細胞内だけでなく周囲の細胞にも作用することを想定し、細胞内外への輸送経路を同定する。候補には脂質を輸送すると報告されているABCトランスポーターなどがあるため、これらの発現ベクターを作製する。候補遺伝子を過剰発現・発現抑制した細胞の培養上清を採取してLPIP3レベルの測定を行う。同時にLPIP3を介した細胞間のシグナル伝達経路を解明するため、オーファンGPCRスクリーニングシステムを用いてLPIP3受容体を同定する。 また、遺伝子改変マウスを用いたin vivo解析への展開も考慮して準備を進める。LPIP3はがん組織において発見されたことから、特に“がん”に関する細胞機能(増殖・生存・細胞死・接着・浸潤・がん免疫等)について検討することを想定する。しかし、その他にも幅広い可能性を念頭に置きつつ、新規リン脂質LPIP3の生理機能を明らかにする。 これらの過程において微少量のリン脂質/リゾリン脂質の解析が求められる場合は、脂質抽出法についてさらなる検討を行う。
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