2018 Fiscal Year Annual Research Report
親子の援助関係とライフコースの格差の連鎖に関する計量社会学的研究
Project/Area Number |
18J21783
|
Research Institution | Musashi University |
Principal Investigator |
俣野 美咲 武蔵大学, 人文科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
Keywords | 若年層 / 成人期への移行 / 親子関係 / 援助関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、成人期への移行過程にある若者の親子関係に注目し、(1)成人期ヘの移行過程にある若者の親世代の時代的変容、(2)若年期の親への経済的援助に対する親の社会経済的地位の影響、(3)親の社会経済的地位と親からの住居的独立の関係について明らかにした。研究内容の概要は以下のとおりである。 (1)「社会階層と社会移動全国調査」の1985年、1995年、2005年調査データを用いて成人未婚子と同居する親世代の特徴の変化について分析を行った。その結果、新しい調査時点になるほど、年齢分布の高齢化、正規雇用の減少と非正規雇用や無職の増加、収入の低下と分散の拡大、ひとり親世帯での同居率の増加が確認された。この結果から、親世代も時代とともにより不安定な層が増加しており、必ずしも子を支えるだけの余裕があるとはいえなくなっていることが示唆された。 (2)「全国家族調査」の第1回調査、第3回調査のデータを用いて、若年期における親への経済的援助に及ぼす出身階層の影響を明らかにした。分析の結果、親の社会経済的地位が高い場合、20~30代の若年期に親に対して一方的に経済的援助を行う確率が有意に低くなることが示された。この結果から、出身階層による不利が、親への援助を介して成人後まで継続し、不利の挽回を困難にさせていることが明らかとなった。 (3)若者の親からの住居的独立に着目し、一度親元を離れた者が親元に戻る要因について分析を行った。「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」の第1~11波データを用いた分析の結果、親との再同居は、就業状況の不安定化やパートナシップの解消と連鎖していることが示された。この結果から、親からのさまざまなサポートを求めて親元に戻る若者の姿が浮かび上がり、若者の自立の過程において親からの援助の重要性が増していること、頼れる親元のない若者への公的な支援の必要性を指摘した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は、上述のとおり若年期の親子の援助関係やライフイベントと出身階層の関係についての分析をおこない、研究成果を次のとおり発表することができた。(1)成人期ヘの移行過程にある若者の親世代の時代的変容については、2018年7月に開催された第65回東北社会学会大会にて口頭報告を行った。(2)若年期の親への経済的援助に対する親の社会経済的地位の影響については、2018年12月に刊行された『社会学研究』第102号に掲載された。(3)親の社会経済的地位と親からの住居的独立の関係については、2019年2月に開催された「東大社研パネルシンポジウム2019」にて口頭報告を行った。 また、当初の予定どおり、7~8月にミシガン大学にて開催されたICPSR Summer Programへの参加を通して、本研究の主たる研究方法である計量分析のスキル向上にも注力した。これにより、研究課題のより円滑な遂行が可能となった。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は、若年層のライフコースにおいて、親との経済的・実践的・情緒的援助のやりとりを介して生じる出身階層による格差について、成人期への移行の指標となるライフイベントに着目して分析を行う。また、そこで得られた知見に関する成果報告にも積極的に取り組む予定である。 上述したテーマについての分析で用いるデータには、現在研究代表者が所属する他のプロジェクトが実施する新たな調査のデータも含まれる。したがって、より早くデータ分析に取り組むために、データクリーニングおよびコーディング等のデータ作成にかかわる作業にも注力する予定である。
|