2018 Fiscal Year Annual Research Report
ハゼ科魚類における純淡水性獲得時の鍵形質と生活史形質の進化
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18J21793
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大戸 夢木 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 通し回遊魚 / 塩分適応 / 陸封 / 生活史進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
ハゼ科魚類の多くは海洋沿岸域を起源とするとされているが, 海と川を行き来する通し回遊性や淡水性の種も含まれている. 一方で, 通し回遊性ハゼ科魚類の多くは仔魚期のみを海で過ごす両側回遊性を有することが知られている. このことは, 海水性から淡水性へと生活史が移行する上で, 仔魚期の生息場所は稚魚や成魚期のそれよりも淡水域へ移行しにくいということを示唆している. 本研究は, 完全な淡水性を獲得する上で仔魚における淡水への生理的な順応能力が鍵形質となっているか, 淡水順応においては具体的にどの様な形質が重要かを明らかにすることを目的としている. ウキゴリ属のウキゴリ, スミウキゴリ, シマウキゴリは互いに近縁な両側回遊種であるが, ウキゴリのみ淡水湖沼にて一生を過ごす陸封集団が出現する. 第1年度目である平成30年度はこれに着目し, ウキゴリ陸封, 両側回遊集団およびスミウキゴリの仔魚を淡水中と海水中で飼育し, 生残率を比較する実験を行った. ウキゴリでは両集団ともに仔魚の生残率が淡水中において海水中より高い傾向にあったが, スミウキゴリでは逆の傾向が示された. さらに, 比重の小さい淡水中での順応において重要な生理形質の一つとして想定される, 浮遊 (比重調節) 能力の比較も行った. ウキゴリの両集団およびスミウキゴリでは体の比重が淡水中ではおよそ淡水の比重と等しい1.000, 海水中ではおよそ海水の比重と等しい1.025であった. 鰾のサイズと体の比重との間には有意な負の相関が認められ, これらの仔魚は鰾への空気の充填によって, 環境水のそれとほぼ同じになるよう体の比重を調節していることがわかった. 以上のことから, ウキゴリ属の陸封化には仔魚の淡水順応能力が重要であるが, 浮遊能力が鍵形質である可能性は低いことが示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第1年度目はウキゴリ属仔魚の飼育実験を行った. 当初はウキゴリ陸封・両側回遊集団, スミウキゴリ, シマウキゴリの3種・4集団の実験を本年度中に終える予定であったが, 卵塊のサンプリング方法や輸送方法, 餌条件などを試行錯誤したため, シマウキゴリについては実験を終えることができなかった. しかしながら, 予備実験ののち他の3集団についてはそれぞれ8卵塊を採集して孵化させ, 実験を行うことができた. さらに陸封化には仔魚の淡水順応性が重要であるという期待された結果が得られつつある. また実際に対象とした集団が陸封, あるいは両側回遊を行なっているかを確認するために卵塊の親魚の耳石から回遊履歴を分析する. 当分析に供するために必要な耳石標本の作製も飼育実験に並行して順調に行なっている. さらに, 淡水中における浸透圧調節に関わる遺伝子の発現量を種間, 集団間で比較するために, RNAサンプルの作製も飼育実験と同時に行なっている. 本年度は研究結果を随時学会等で発表を行う予定であったが, 実験期間が予想より長くなったことや, 結果が出揃ってから発表すべきと判断したことから, 行うことができなかった. 一方, 上記の様に実験結果がまとまってきていることから, 平成31年度は学会や研究会において有意義な発表を行うことができると期待される. 以上より, 本課題の研究はおおむね順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
第2年度目はまず, 第1年度目に完了できなかったシマウキゴリについて, 仔魚の飼育実験を行う. 3種・4集団の飼育実験の結果を解析した後にとりまとめ, 9月に行われる日本魚類学会年会にて発表する予定である. 集団の回遊履歴を確認するための耳石標本の作製は6~8月にかけて行う予定である. すでに作製手法は共同研究者から指導を仰いでおり, 所属研究室にてマイクロアナライザーにかけられる状態まで耳石の研磨を行う予定である. マイクロアナライザー分析は8~11月に, 共同研究者の所属する東京大学にて行う予定である. 仔魚のRNAサンプルからのRNA抽出は11~3月に行い, RNA-seqの受託解析に供する予定である. その後, NHE3やNCCなど淡水中での浸透圧調節において重要な遺伝子の発現量を種間・集団間で比較する予定である. さらに, 網羅的に得られた遺伝子発現データから, 淡水中で上方制御されている遺伝子数や共通性も比較し, 淡水中においてウキゴリの仔魚は他の2種とは異なる遺伝子発現様式を示すかということも明らかにする. なお, 浸透圧調節能力を確かめるために体液の血漿浸透圧の測定も行う予定であったが, 仔魚のサイズが非常に小さいため体液が十分に取り出せず測定が困難であること, 生残率やRNA-seqによるイオン輸送体等の発現量解析から浸透圧調節能力を比較できることから実施しないこととした.
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