2018 Fiscal Year Annual Research Report
歴史意識と政治思想――マキァヴェッリの「画期性」再考
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18J21882
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
村木 数鷹 東京大学, 法学政治学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | マキァヴェッリ / 歴史叙述 / 政治思想 / ルネサンス / 人文主義 / フィレンツェ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究実績は、大別して以下の三点に纏められる。 第一に、東京大学で開催された政治理論研究会において、「マキァヴェッリの歴史叙述」という表題の下、自身の研究成果を発表する機会を得た。その準備過程では、マキァヴェッリの『フィレンツェ史』という著作に対する本邦初の本格的な検討という修士論文に結実した自身の従来の研究を再検討し、その精度を向上させることに努めた。 第二に、当初の研究計画に従って、マキァヴェッリの『君主論』という著作を、一般に「君主の鑑」と総称される同一のジャンルに属する先行する伝統との対抗関係を意識して読解する作業を進めた。その結果、当時のイタリアが陥っていた前代未聞の危機的状況を意識するが故に、過去の歴史の事例から目の前の現実に対して有効な処方箋を引き出すことの難しさを強烈に自覚しながらも、敢えて果敢にこれを試みた点にマキァヴェッリの画期性の原点を見出し得ることが判明した。 第三に、ローマへの海外出張を実施して、研究関係の資料調査を遂行すると同時に、海外のマキァヴェッリ研究者との交流を図った。具体的には、Biblioteca Nazionale Centrale di Romaを中心とした図書館や文書館に足を運び、国内では入手困難な資料を収集した。また、La Sapienza大学を訪れて、Giorgio IngleseやGennaro Sassoといった研究者と面会する機会を得た。この出張を通じて、イタリアにおいても『フィレンツェ史』に関する研究が未だ充分に進められていないことを実際に見聞することができ、歴史叙述という観点からマキァヴェッリの画期性を再考する自身の研究の有効性を再確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述した研究実績に対応する形で、現在までの進捗状況を確認する。 第一に関しては、様々な専門の研究者から受けた活発かつ有意義な質疑にも恵まれて、充実した研究報告の機会となった。ここで得られた成果は、更なる修正を施した上で『国家学会雑誌』に論文として掲載されることが既に決定している。 第二に関しては、当初の予定通り『君主論』の読解を進める傍ら、学内の若手研究者と共に勉強会を組織して、定期的に『ディスコルシ』を会読する場を設けた。これを通じて得られた知見の一部は、早稲田大学で開催されるイタリア言語・文化研究会の例会において報告することが既に決定している。 第三に関しては、近年刊行された『マキァヴェッリ事典』の監修者を務めるなど、マキァヴェッリ研究の世界的な権威として不動の地位を誇るGennaro Sassoから個人的に研究上の助言を受ける僥倖に恵まれたことは、望外の成果であったと言える。マキァヴェッリの全著作に目配りしながらも、特に『フィレンツェ史』に重点を置いて研究を進めることが有効な指針となるとの見通しを得たことは、今後の研究推進にとっても重要であった。
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Strategy for Future Research Activity |
マキァヴェッリにおける歴史意識と政治思想との関係という大枠の問題意識に基づいて、関係する諸テクストの読解および比較検討を進める。 具体的には、当初の計画に従って、まず『ディスコルシ』を中心としたマキァヴェッリの著作を読解する作業を進めていく。とりわけ、マキァヴェッリが古代ローマ史を如何に解釈したのかを詳細に吟味することを目指す。これに際して、先行するLeonardo BruniやFlavio Biondo、更にGiovanni Pontanoといった人文主義者が示す態度との相違に着目することが有効であろう。 また、政治理論研究会での報告に続く質疑応答にも刺激されて、マキァヴェッリとの比較という観点からグィッチャルディーニの著作の分析にも着手しており、これも継続して進めていく予定である。この両者の間に歴史、特に古代ローマ史から得られる教訓の有効性に関して対照的な立場が見出されることは、既に研究上では広く指摘されている。しかし、こうした歴史意識の相違が両者の政治的な見解、更には両者の歴史叙述の性格の相違に如何に関係していたのかという問題は、これまで充分に検討が加えられてきたとは言い難く、自身の研究にとっても重要な視座を提供し得る。なかでも、マキァヴェッリが最終的に『フィレンツェ史』という都市を基準点に置いた歴史叙述を執筆したのに対して、グィッチャルディーニが『イタリア史』という都市を越えた視点からの歴史叙述に着手するに至ったという事実は、その史料批判の方法の違いや実務経験の相違なども踏まえた上で、改めて検討するに値する。
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