2019 Fiscal Year Annual Research Report
ウミガメ卵を採餌するヘビにおける社会行動の獲得要因の解明
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18J21914
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松本 和将 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 採餌戦略 / 社会行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
多くの動物は、生存・繁殖に様々な利点があることから集団を形成して生活している。集団の中で単なる性的な活動以上の協調的な相互コミュニケーションがあれば、その集団には「社会」があると規定される。社会には、複数の個体の間で繰り広げられる様々な個体間相互作用があり、これらは総称して「社会行動」とされる。社会行動は、その意味合いから順位制や縄張りなどいくつかに分けることができ、社会的に複雑な群れを作る種は様々な社会行動をすることが分かっている。 霊長類をはじめ多くの動物において社会行動に関する膨大な量の研究が行われてきた。これにより、それぞれの社会の構造や機能が解明されてきた。しかし、進化の過程でいかにして社会が誕生して社会行動が獲得されるのかについての議論は、いまだ確証がないため推測の域を出ない。すでに明確な社会が確立されている種を対象にしていては、社会行動の獲得のための条件を解明することは不可能である。なぜなら、それぞれの動物に特有な社会行動は、長い時間の中で進化した形質であることから、その形成過程を現在では観察することができないからである。 3500種以上いるヘビ類は、一般的に全て単独性で集団を形成しない。また多くの有性生殖の動物と同様に繁殖に関する個体間相互作用は存在するが、それ以外の行動においてはほとんど確認されていない。これらのことから、ヘビは一般的に社会性が非常に低いとされてきた。しかし、沖縄島に生息するアカマタという 夜行性のヘビにおいて、ウミガメ卵を採餌する時に限って、社会的な行動をすることを発見した。ヘビがウミガメ卵を餌にすることは非常に珍しく、世界でも本種を含めた2種のみが頻繁に採餌する。 本来は社会をもたないヘビが、特定の条件下において社会行動をするようになるメカニズムを解明することができれば、動物の社会の芽生えに必要な条件を探る一助になる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は砂浜にウミガメの産卵巣を模した装置を設置して、任意の場所に小集団を形成させることで定量的な観察を試みた。4カ月間に及ぶ野外実験では、人為的に小集団の形成を促すことはできなかった。原因は以下の二つが考えられた。本計画では、沖縄県の保護動物であるウミガメの卵の代わりに鳥類の卵を使用し、装置の周辺にウミガメ卵のにおいを付着させた砂を撒いた。しかし、風雨の影響を受けやすい砂浜ではウミガメ卵のにおいはすぐに消失して、十分な期間ヘビを引き留めることができなかった。また、ヘビが砂中深くにある実験用の卵まで到達しやすいように塩化ビニルパイプをトンネルのように常時通していた。しかし、このパイプはヘビ以外にも様々な生物を装置内に招くとともに、装置内の温度を急激に変化させたことで、卵の過度な腐敗を促進させてしまった。 本年度は、計4000時間以上の映像データをを詳細に解析することで人為的な影響を受けていないアカマタの自然な採餌行動を明らかにすることに努めた。ビデオ記録から373回の採餌行動を解析し、アカマタによるウミガメの採餌成功率は産卵巣の状態によって異なることが分かった。この結果から、アカマタは採餌が容易な産卵巣ではより長く探索すると予想して、さらに詳細な解析を進めた。しかし、実際の探索時間は産卵巣の状態に関わらず一貫して5分程度であった。さらに、この採餌を諦めるまでの探索時間は、ヘビの体サイズと探索行動をする時期のそれぞれで比較しても同様であった。この一貫した探索時間は、ウミガメ以外にも非常に多様な餌動物を採餌する本種が、最も効率的に獲物を捕獲できるように進化した行動形質であると考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究によりヘビが一時的に集団を形成する要因は、ウミガメの産卵巣における卵の採餌が深く関係していることが示唆された。したがって、ウミガメの産卵巣を模した実験装置を野外に設置して、人工的なヘビの小集団の形成を試みた。しかし、自然の砂浜に設置した装置では、様々な原因によりヘビを誘引することができないことが分かった。したがって、ヘビの社会構造を把握するために、今後は半野外もしくは実験室下での対面実験の実施を考慮する必要がある。 飼育下におけるヘビの個体間相互作用および社会的な行動は、これまでに数は少ないものの報告されている。しかし、それらの観察例は、いずれも自然環境とは乖離した環境での現象であったことから、それらはヘビ本来の行動であるのかという課題が残っていた。本研究のアカマタについても、先行研究と同じ手法を用いた操作実験を実施しても、同様の課題が残る。したがって、今後の研究の推進方策としては、飼育下における実験を行うための前実験として、半野外における操作実験を行う。 具体的には、現在までに作成したウミガメの産卵巣を模した実験装置を改良し、複数のアカマタを囲ったコドラート内に設置する。そして、その実験装置に任意の個体を設置して、対面実験を行うというものである。一般的にヘビは、飼育下では活動量が極端に低下するとされているため、この方法を用いればヘビ本来の自然な行動を観察できるものと期待できる。
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