2019 Fiscal Year Annual Research Report
トルストイの宗教論―19世紀ロシアのキリスト教的文脈におけるその位置づけ
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18J21963
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大崎 果歩 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | トルストイ / ロシア正教会 / 聖書翻訳 / 正教神学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、『杜翁手澤聖書』と呼ばれる、トルストイ直筆の書き込みが多く見られるロシア語福音書の閲覧が叶い、この貴重資料を元にした研究を進めることができた。この福音書は、1896年にトルストイが、日本人正教徒であり『老子』のロシア語訳やトルストイ作品の日本語訳等の功績で知られる小西増太郎に贈ったものである。この『杜翁手澤聖書』に記されたトルストイ自身の書き込みを、彼の宗教的著作『要約福音書』や『四福音書の統合と翻訳』の記述と照らし合わせて読解することによって、彼のキリスト教観を分析する作業に取り組んだ。とくに、『杜翁手澤聖書』にはトルストイが特に重要だとみなした節に引かれた赤線・青線のほか、不必要、あるいは読むべきでないとみなした黒色の取り消し線があり、そこにこそトルストイのキリスト教観が濃厚に現れていることが明らかになった。さらに、奉神礼で用いられている教会スラヴ語聖書と、19世紀後半に初の全訳ロシア語聖書として出版されたシノド訳聖書を比較読解することによって、トルストイがシノド訳聖書に対して行なった批判の妥当性を検討した。 他にも、トルストイは正教の「儀式的な」側面を特に排除しようとしたが、正教会の日々の奉神礼がどのような構成をとり、いかなる神学的意味を持つのかを正教奉神礼学や聖歌学の観点から検討することによって、トルストイの批判的視点とは別の角度から正教会の姿をとらえることに努めた。また、当時のロシア正教会神学校のカリキュラムの変遷や教科書一覧等を調べることによって、当時の教会知識人がもつ学問的背景を知ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)これまでほとんど一般公開されてこなかった『杜翁手澤聖書』の閲覧が叶い、この貴重資料に基づいてトルストイの宗教的著作とロシア語・教会スラヴ語聖書の比較読解を進めることができたため。 (2)モスクワ滞在により多数の資料が収集できたほか、神学部での研究交流によって正教研究側からの重要な研究視点を取り入れることができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、今年度に引き続き『杜翁手澤聖書』になされたトルストイの書き込みの分析を行う。また、19世紀ロシアの神学潮流を調査し、トルストイが当時の正教神学やプロテスタント神学をいかに受容したのか、彼の宗教的著作や日記の記述に基づいて考察を進める。今年度もロシアに長期滞在し、正教会側の文献を中心に図書館等での資料収集を行う予定である。
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