2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18J22013
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
勝田 悠紀 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
Keywords | リアリズム / 演劇性 / イギリス小説 / メディア論 / ポストクリティーク |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度初頭の2ヶ月ほどは、アメリカ文学会東京支部での発表「エズラ・パウンドとマーシャル・マクルーハン――視覚・聴覚・電気」の準備に当てられた。この研究は当初の研究計画の中心に位置するものではなかったが、21世紀における小説論の意義を考えるにつれ、筆者はメディアの問題の重要性への認識を深めており、その意味でも、現時点での考察をまとめられたという意味では充実した成果だった。なおこの研究自体は、近年中にさらに洗練させ論文化したいと考えている。 筆者の小説論に関わる研究は、本年度は「演劇性」というテーマを中心として行われた。小説が18世紀以降文学の主流ジャンルとして自立、発展していくなかで、「演劇」の用語を用いて自らを語りつつ、同時にそこから自らをどのように切り離し、規定していくかということは、極めてクリティカルな問題だった。一般に近代小説的内面性は次第に演劇的外面性を嫌悪するようになり、これが本研究の主題である「小説の芸術化」の一側面を構成していく一方で、小説は演劇から完全に手を切ることはできず、それどころかむしろ、ある仕方での演劇的モードの活用さえ試みていった。ここには小説というジャンル、その物語の作り方をめぐる根本的な問題が現れている。本年度の調査、考察の結果は、次年度の論文執筆によって形にしていく予定である。 また、「演劇性」のテーマとも本質的には関わるはずの「批判」の問題を、批評理論の側面から検討した「ポストクリティーク」というテーマを、本年度は集中的に扱った。これはアカデミズムを超えて広い範囲への示唆に富む重要なテーマであると判断し、雑誌『エクリヲ』の協力を得て特集を行った。この成果は、2020年5月に刊行される予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」に記した通り、調査、考察の範囲がやや拡張し散逸気味になる傾向はあるものの、基本的には19世紀リアリズムを中心とする小説の歴史の中心的な問題、小説の「芸術化」にアプローチする道具立てが整ってきたと感じている。特に本年度は、メディアという問題に着目することによって、文字の配列よりもさらに外側の、本とインクという物理的な条件への洞察を深められたこと、「演劇性」の問題への着目によってジャンル論的な意味での小説の位置を具体的に扱う手立てが得られたことが、特に重要な成果であった。また、この「小説」の考察からの「批評」へのフィードバックといった形で、「ポストクリティーク」の問いを深めることが出来たのも意義深い進展だった。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度に当たる2020年度は、ここまでの研究を総合し、アウトプットを増やしていく時期と位置付けているため、何よりもまずこの点に力を注いでいく方針である。『エクリヲ』での「ポストクリティーク特集」は2020年5月の刊行が決まっている。小説論に関しては、「演劇性」のテーマの考察を理論的により洗練され、小説論としてまとめることを考えている。
|
Research Products
(1 results)