2019 Fiscal Year Annual Research Report
ディラック半金属薄膜の超高品質化とトポロジカル量子輸送現象の究明
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18J22132
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中澤 佑介 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | ディラック半金属 / ワイル半金属 / スピン軌道相互作用 / 弱反局在効果 / 分子線エピタキシー / 化学置換 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、三次元トポロジカルディラック半金属Cd3As2について、化学置換による量子輸送特性の制御に取り組んだ。化学置換を行う主な目的は、1、Cd3As2中の電子キャリア密度を低減し、p型領域までの量子輸送特性を系統的に評価すること。2、Cd3As2の特異な電子状態の由来となるスピン軌道相互作用を増大させ、その非自明な量子輸送現象の顕在化を図ること、の二点である。前者の目的についてはZnを、後者についてはSbをドーパントとして用いて研究を行った。 Cd3As2においては化学置換が困難であることが知られており、過去の研究報告例も非常に限られていたが、前年度までに確立してきた分子線エピタキシー法による高品質Cd3As2薄膜の作製条件を応用することによって、ZnおよびSbのいずれのドーパントについても、置換量の系統的に異なる、良質な薄膜試料の作製を達成した。 また、作製したこれらの試料に対して輸送特性の評価を行い、Znによる化学置換では、n型からp型までキャリア密度が変調されることを確認した。Sbによる化学置換を行った試料についても、置換量に対して電子キャリアが低減されることが確認されたほか、スピン軌道相互作用の大きな系で観測される量子干渉効果である弱反局在効果が、Sbによる化学置換によって顕在化する振る舞いを観測した。この観測された弱反局在効果を解析することにより、Cd3As2中における、スピン軌道相互作用に由来する電子散乱の確率が、Sbによる化学置換によって増大することが示された。これは、Cd3As2におけるスピン軌道相互作用およびバンド反転量を、Sbによる化学置換によって増加させることが可能であることを示唆しており、今後、ディラック半金属としてのCd3As2の非自明な量子輸送特性の更なる解明を進めていくにあたり重要な結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は当初の計画通り、分子線エピタキシー法を用いたCd3As2における、ZnおよびSbによる化学置換と、その輸送特性の評価に取り組んだ。先述の通り、Cd3As2における化学置換については先行研究が非常に少ないこともあり、本年度は主に、試料品質を保ちながら効果的に化学置換を行う試料作製条件の確立の部分に注力する結果となった。Cd3As2においては、僅かな化学置換量に対しても試料品質が大幅に低下してしまうという問題があり、高品質の試料を得るまでには、成長温度や成膜時の元素分圧などについて、様々な観点から検討する必要があった。しかしながら試料作製条件の最適化を重ね、最終的には、ZnおよびSbのいずれのドーパントの場合についても、置換量を系統的に変化させた良質な薄膜試料を得ることができた。輸送特性の評価という点においても、Znをドーパントとした化学置換によるキャリア密度の変調と、Sbをドーパントとした化学置換によるスピン軌道相互作用の変調という、当初期待していた通りの結果を観測するに至った。これらの結果は、Cd3As2の電子状態の制御に自由度を与え、今後の研究の発展の可能性を広げるものであると考えられる。これらのことを鑑み、本研究は当初の計画通り、順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後さらにディラック半金属としてのCd3As2の非自明な電子状態の解明を進めていくためには、化学置換によるバンド構造の変調に対して、磁気抵抗振動やカイラル異常効果といった量子輸送特性がどのように変化するかを実験的に検証することが望ましいと考えられる。化学置換については本年度、試料作製と輸送特性の評価の両面で一定の成果を得たものの、依然として、結晶性や電子移動度という点において、ノンドープのCd3As2試料に匹敵するほどの試料品質を実現するまでには至っていない。この問題を解決するべく、化学置換を行った試料の更なる試料品質の改善に取り組む一方で、現時点で実現している試料品質の薄膜試料に対してトランジスタ構造のデバイスを作製することにより、その量子輸送特性を評価することも検討している。特に、分子線エピタキシー法により作製したCd3As2薄膜試料において明瞭な磁気抵抗振動の観測が困難となっている理由としてキャリア電子密度が非常に小さいことが挙げられるため、良好なトランジスタ構造の作製によりキャリア電子密度を制御することを目指す。特に、Sbによる化学置換量に対する磁気抵抗振動の振る舞いの変化を詳細に検証することにより、Cd3As2中のスピン軌道相互作用の増加に対して、有効質量やフェルミ速度といったバンド構造の特徴的な物理量がどのように依存するかを評価することを目指す。また、ディラック半金属に対して、時間反転対称性を破ることによりトポロジカル相転移が起こり、ワイル半金属相が実現すると期待されている。この観点から、これまでにZnやSbによる化学置換を行ってきた知見に基づき、磁性元素であるEuによる化学置換についても、試料作製の可能性について検証する。
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Research Products
(1 results)