2018 Fiscal Year Annual Research Report
Kingship and Royalism in Early Modern Britain
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18J22150
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
李 東宣 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 国王至上権 / 主教制 / 世俗 |
Outline of Annual Research Achievements |
聖俗両面からの王権論を考察するという本研究の目標達成のために、宗教領域と世俗領域の関係という観点から、中世の叙任権論争と17世紀半ばにおける主教の世俗職務論争に関連する一次・二次資料の渉猟に努めた。その結果、内戦直前までの主教の世俗職務論争の構図が、中世の教皇対皇帝論争のそれと酷似していることを見出した。今後は王権論という枠組みに拘らず、主教の世俗職務という論点を中心に研究を進めることで、聖俗二領域の臨界という大きな問題の考察に貢献できるのではないかと考える。主教の世俗職務論争は、これまで単独で扱われたことのない主題であり、この主題の傘下には十分の一税、裁治権、上院での投票権などをめぐる論争など、政治(世俗)と宗教(聖)の関係を考える材料が豊富にある。近世イギリス史歴史学と思想史領域においては、国内外を問わず以下2つの理由から主教の世俗職務研究がされてこなかった。まず、今でも根強いピューリタン・議会派中心史観によって、主教の世俗職務論争は専ら反教権主義の立場からしか検討されることがなかった。17世紀に入り、富と権力を蓄えるようになった主教に対して「妥当にも」異議を唱えたピューリタンや議会派の言説しか参照されてこなかったのである。次に、宗教改革後に成立した国王至上権という枠組みの縛りが強く、主教は国王の支配下にある存在としてしか考えられてこなかった。特に、社会史・民衆史の手法による教区レベルの実証的研究はあるものの、単独の思想の主体としては扱われてこなかった。こうした先行研究の問題を踏まえ、主教の世俗職務を擁護した側を中心に研究を進めることで、ピューリタン・議会派中心の研究状況を刷新し、国王と主教の関係を再考し、最終的には聖俗の臨界問題に対して貢献ができると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画した王権論ではなく主教をめぐる論争に立ち入ることになったが、イギリスにおいては主教制支持者が王党派であることが多いことから、根本的な関心は維持されている。本研究をいかに大きな文脈に位置付けるかを模索した年であったが、中世の叙任権論争という地点を見つけられた。さらに上で述べたように、今後研究すべき道筋が明確になった。国内外における史料調査や学会参加も支障なく進んだ。各所で行なって研究発表原稿をもとに、これまでの成果を投稿する予定も順調に進んでいる。 したがって、本課題は概ね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は最終的に1580年から1640年代を対象とするが、今年度は特に先行研究の層が厚い1630年-1640年代の研究を進める。1630年代と1640年代は世俗と宗教の境界線を争う論争が激化し、出版物が急激に増加した時期でもある。1630年代には儀礼の決定権をめぐって、1640年代には聖職者の世俗裁判権と立法権をめぐって、王党派対ピューリタン・議会派という構図で、互いに自由と権利を論拠に論陣を張る。一次資料が豊富な派遣先において、これまで研究対象となることの少なかった王党派の史料を中心に精査することで、王党派における自由と権利の概念を明らかにする。議会資料・パンフレットのほか、王党派の代表的な論者であるEdward Hyde・William Chillingworth・Gerard Langbaineらによる著作を読み解く。
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Research Products
(3 results)