2019 Fiscal Year Annual Research Report
国家後見的な集団的労使自治の創造―交渉主体と労働協約適用形態の多元化理論
Project/Area Number |
18J22166
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
渋田 美羽 九州大学, 法学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 労働法 / 労働協約 / 団体交渉 / 正統性 / フランス法 / 労使自治 / 従業員代表 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、労働組合を中心とした既存の集団的労使自治システムが十分に機能していないということに問題意識を持ち、国家が「後見的」に、団体交渉や集団的規範の形成の促進をエンカレッジするという方向での集団的労使自治の新たなモデル構築に向けての法的理論を検討している。フランスにおいては、日本と異なり、非組合員にも労働協約の適用があることに加え、1982年以降、労働者にとって、より不利な協約の締結が徐々に認められ、近年も大改革がなされた。よって、本課題では、このように度重なる改革により、集団的規範形成を促進する動きのあるフランスと、わが国との比較を行っている。 とりわけ、2019年度においては、比較対象国であるフランスに滞在し、研究活動を行った。本年度も昨年度に引き続き、近年のマクロン政権による団体交渉・労働協約法制への改革の検討を行い、また、労働協約の有効要件としての多数要件および協約の正統性の議論について、特に平等取扱に着目した検討を行い、ポーで開催された研究会へも出席した。フランスにおいては、労働者にとって不利な内容ともなりうる労働協約が非組合員にも適用されることから、現行法においては、原則として、過半数の支持(様々な方式が存在する)による正統性が求められる。その過半数要件がいかなる法的意義、法的効力を持つのかを中心に研究を行い、過半数の「正統性」が実際にどのような場面に具体的に表れているのかの検討も行った。この点、フランスにおいては、近年、労働協約が労働者の過半数の支持を得て締結されている以上、その正当性が推定されるという判決が下され、その射程は徐々に拡大していた。しかし、新たな判決により、従来の判決が判示した「正当性の推定」の一般化が否定されるに至っており、過半数の支持による正統性にも限界があるということが判明した。 帰国後は、これらの成果の公表に向けての準備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、前年度に引き続き、本研究における日本法との比較対象国であるフランスのボルドー大学比較労働法社会保障法研究所に滞在して、研究活動を行い、本課題に関連する多くの資料を収集し、また、現地の研究者と議論を行うことができた。研究実績記載の通り、本年度は当初の計画通りフランス法についての検討を中心に行い、とりわけ、労働協約の正統性に関しては、平等取扱の領域について、裁判例の検討を行い、また現地の研究会に出席し最新の議論を拝聴する機会を得られた。このほか、前年度に引き続いて、フランス労働法典におけるレフェランダム制度(従業員による直接投票制度)に関しても検討を行うことができた。 他方で、フランスに滞在したことで、日本法の検討が後回しになり、また、研究成果の公表もできなかった。しかし、帰国後は、滞在中の研究成果の公表に向けての準備を開始しており、これらの事情を考慮すれば、総合的には、おおむね順調に研究を進めることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
前述のとおり、研究成果の公表ができていないため、第一には、フランス滞在中の研究成果を公表に向けての準備を進めたい。 2020年度は本研究課題最終年度にあたることから、この研究課題の集大成として、その成果を博士論文に集約するよう準備を行う。具体的には、これまでのフランス法に関する成果をもとに、日本法に関する検討を再度行い、また、フランス法に関しても、より緻密な考察を加え、本研究の課題とする、集団的労使自治の新たなモデル構築のための法的理論を完成させたい。
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