2019 Fiscal Year Annual Research Report
オフグリッド実践に伴う感覚・行為の変容と創造性をめぐる人類学的研究
Project/Area Number |
18J22762
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
北川 真紀 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | オフグリッド / 地下水 / 気候変動 / 狩猟 / 豚熱(CSF)感染 / 人口減少社会の未来 / フィールドワーク / 文化人類学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、現代日本の山間地域における「自然」経験と生の再編について人類学的な分析を試みることにある。本年度は年間を通して福井県大野市に滞在し、現地調査を行った。これにより博士論文執筆のための民族誌的なフィールドデータを収集した。また、8月に開催された国際学会「The SEAA reagional conference」では個人発表を行った。これは採用1年目の前半に行ったオフグリッドに関する理論的な検討と、実際のフィールドにおける経験を統合するような試みであった。加えて、1年目に達成できなかった研究成果の論文化と『超域文化科学紀要』への投稿を年度内に行った。現在査読中であり、掲載がかなえばオンラインでの公開も予定している。
参与観察の実施を通して得られた重要な知見としては、以下の二点があげられる。 1. 研究対象を枠付ける「オフグリッド」という用語の再検討:大野市での家庭生活やその他の活動にはオフグリッド実践に特徴的な切断と接続をくり返す創発的な運動を確認することができる。しかしながら、現在の大野市を厳密な意味での「オフグリッド」(電気の供給網に接続されておらず、家庭内で発電/消費を行う)状態であると言うことはできないため、現地での生の経験に対して適切な言葉を慎重に与えていくことが重要である。
2. 地域で「力」をもつ新たな対象を視野に入れる:ここ数年来の周期的な天候・季節の乱れや地域人口の減少、ウイルス感染の広がりや野生動物とのパワーバランスの変容といった環境の変化によって、地域の生活は創発的な変容を余儀なくされる状況にある。根本的な問題関心は引き継ぎながらもフィールドの現状に合わせて仮説・課題の調整が求められてきた。さらに調査対象も、筆者の滞在中に「力」をもつ対象であった「豚熱」の広がりやツキノワグマの市街地への出没等を組み込み、多彩に広がりをもちつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、福井県大野市での現地調査によるデータ収集に集中することを目標としており、予定通り調査を実施することができた。加えて国際学会での発表では、海外の研究者から多数の質問やフィードバックがあり、研究を進めていく上で有用なやりとりを行うことができた。さらに、1年目に予定していた論文の投稿を行うことができたことも本年度の研究進展においては意義深いことであった。発表・執筆の作業では「オフグリッド」という枠組みの可能性と限界についての認識を深めることができた。この結果、より現状によりそう形で最終年度の研究に引き継いでいけると考える。
以上、当初計画していた現地調査と国際学会での発表に加えて、投稿論文の執筆により研究の最終的なまとめに向けた課題の整理・検討を行えたことから、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の現地における長期調査により、博士論文執筆の基盤となるデータを収集することができた。採用最終年度となる2020年度は、収集したデータの整理と、本研究における理論的基盤の再検討を行い、これをもとにデータの分析を行って博士論文の執筆を行う。
まず、フィールドデータの整理を進めると同時に、植物、 モノ、野生動物、菌類、人間等の境界を曖昧にしながら全体として立ち現れてくる自然の「力」をいかに人類学的に思考するのか、フィールドの具体的なイメージをもった上で、先行研究の理論的検討を行う。これを踏まえて2020年5月に開催予定の日本文化人類学会にて口頭発表を行う。その際のフィードバックを踏まえて論文を執筆し『文化人類学』に投稿する。これらの過程で不足していることが明らかになったデータに関しては、追加的な現地調査を実施して補っていく。
以上、発表、論文執筆作業と追加調査を足掛かりとして、博士論文の執筆を進めていく計画である。
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Research Products
(2 results)