2018 Fiscal Year Annual Research Report
学習後の振り返りにおけるメタ認知的方略獲得の支援ー「教訓帰納」の質に着目してー
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18J22822
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Research Institution | The University of Tokyo |
Research Fellow |
柴 里実 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 教訓帰納 / 教師の評価 / 振り返り |
Outline of Annual Research Achievements |
学習方略「教訓帰納」の利用の促進を担う教師に関する検討(研究①)と,実践的な取り組みによって介入研究への示唆を得た(研究②)。また,教科学習における「振り返り」の促進(研究③)と評価(研究④)に関する共同研究も行なった。教訓帰納と近年学校教育で行われている授業の振り返りは深く関連する活動であり,両者を検討することは今後の学校現場への重要な示唆になると考えられる。 ① 「教訓」に対する教師の評価についての予備的検討 学習者が引き出した教訓を教師がどのように評価するのかについて検討するため,教師20名に対して質問紙を用いた予備調査を行なった。数学の問題解決後に被験者が引き出した教訓を複数提示し,その後の問題解決に役立つかという有効性の観点から3段階で評価を求めた。② 効果的な教訓帰納の利用を目指した学習法講座の実践 中学1年生30名を対象に,教訓帰納をテーマとした2時間分の学習法講座を行なった。データ収集のため,講座の1ヶ月後に教訓帰納を促す課題を用いて遅延テストを行った。③ 理科授業における振り返り活動の促進 自分で実験計画を立てるという理科の授業実践において,効果的な振り返りを促す介入を行った。中学2年生約70名を対象に5日間の授業を行い,実験群には,振り返りのモデルや振り返りの思考プロセスを提示した。その結果,授業中の振り返り記述の質が統制群よりも高く,振り返りの有効性に対する認知が向上したことが示された。④ 学習者の振り返りに対する教師の評価タイプの検討 教師がどのように生徒の振り返りの記述を評価するのかを探索的に検討した。教師30名に対して,学習者の振り返り記述を提示し,「深い理解を達成しているか」という観点に基づいた評定と評価基準の記述を求めた。その結果,評価基準の記述から教師によって「深い理解」に対する認識が異なり,振り返りの評定値にばらつきが生じることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画に沿った教訓帰納に関する研究として,教師の評価に関する研究を予備的に行った(研究①)。現在分析中であるが,結果によっては来年度も継続して検討していく必要があるだろう。実践研究(研究②)に関しては,自分自身が実験として介入を行うための示唆を得られたという点で貴重な機会であったと考える。 また,当初の研究計画には想定されていなかった主な研究成果として,教科授業における「振り返り」をテーマとした2つの共同研究を行ったことが挙げられる。1つは,中学2年生を対象とした理科の実験授業において,振り返りに対する介入の効果と,振り返りと協働的対話との関連を検討した(研究③)。もう1つは,授業での振り返り記述が,児童生徒の学びの深さを評価する媒体になりうることを新しい視点として掲げ,教師を対象として振り返りの評価に関する調査研究を行なった(研究④)。振り返りは申請者の研究テーマである教訓帰納と深く関連する概念であり,近年学校教育において振り返り活動が取り入れられるようになっているという社会的なニーズにも応えうる研究であると考える。 これまでの研究成果についての論文執筆・投稿に関しては,今年度は計画通りに進まなかったため,次年度も継続して努めていく必要がある。 研究の遂行以外の活動としては,積極的に学校現場に訪問し,授業観察や教員・児童生徒と交流を行なった。申請者は,学校現場に研究フィールドを持ち,自分でも実践しながら学術的研究を行なっていくというアプローチを試みているため,現場との関係作りができたことは,今後の研究を見据えた大きな収穫であるといえる。また,学会以外においても教師向けのセミナーや教授学習系の研究者や教育関係者に向けたシンポジウムで自身の研究成果を発表し,意見交換ができたことも今後の研究遂行への学びとなったと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
まず,昨年度得られたデータの分析を終え,研究として発信できる状態にする。教訓帰納に対する教師の認識についての研究は,予備的に調査したものであるため,定性的な調査も行い,現状の学校教育の問題点や今後の方向性を考察する必要があると考える。 新たな研究の遂行としては,「質の高い教訓を引き出す」ことを目標としてどんな介入・支援が必要であるかについて,引き続き検討していく。現在執筆中の論文で,教訓を引き出すためには,正解の理解・自分の思考過程の振り返り・前者2つの比較が必要であるということが示されている。そのため,これらの認知的活動を促す介入を教授法として提案するための実験を行う。具体的には,中学2年生を対象にした5日間の数学の実験授業において,問題解決活動後に,効果的な教訓帰納を行うために必要な認知的活動を促す介入を加え,その効果を検討する予定である。また,最終年度の研究計画のうちの1つである中長期的な実践研究を遂行するために,調査に協力してくれる学校や教師を探す予定である。 今年度の学会の研究発表は,現時点で2件決定しているが,そのほかにも国内学会(日本教育工学会・日本教育実践学会など)にも参加し,自分の研究に関する情報収集や意見交換を行う。今年度中に,すでに研究成果が得られている2つの研究と,夏に予定している実験研究を論文にまとめ,投稿する予定である。
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Research Products
(5 results)