2019 Fiscal Year Annual Research Report
学習後の振り返りにおけるメタ認知的方略獲得の支援ー「教訓帰納」の質に着目してー
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18J22822
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Research Institution | The University of Tokyo |
Research Fellow |
柴 里実 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 学習方略 / 教訓帰納 / 数学的問題解決 |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 問題解決後の効果的な教訓帰納の利用を促す実践の効果検証 学び方として教訓帰納を教授する学習方略指導の実践の枠組みを考案し、その効果検証を行った。中学2年生約80名を対象に、数学を題材とした5日間の実践授業を行った。具体的には、教訓帰納の利用の仕方についての明示的な教授に加え、教訓帰納に必要な認知的活動である「正しい解法の意味的理解」「自分の思考過程と正しい解法の比較」を促すペアワークを取り入れ、実際に問題解決のあとに教訓帰納を利用するという授業を行った。この授業を通して、参加者が自分で問題解決後に適切に教訓帰納を利用し、正しい解法から後続の問題解決に有効な情報を教訓として引き出せるようになることを目指した。分析の結果、参加者の問題解決スキルの向上に加えて、教訓帰納の利用に対する意識が向上したことが示された。また、授業で取り扱っていない新規の問題解決後に、正しい解法ステップの説明や「なぜその手続きを選択するのか」という理由を含んだ教訓を引き出す参加者が増加したことが示された。先行研究で提案されている方略教授の枠組みは、自発的な方略の利用に焦点を当てており、学校の実践との連携が重要であることが示されている(Seo et al.,2017)。本研究は、問題解決に役立つ教訓を引き出せないという学習者の方略利用におけるつまずきに着目し、教訓を引き出すまでの認知的プロセスを支援する教授法を提案したという点において新たな示唆を与えたと考える。
2.教訓帰納の利用に影響を及ぼす信念に関する予備的検討 中学生および高校生6名に対して、数学学習および教訓帰納の利用に関するインタビュー調査を行った。インタビューでは、普段の家庭学習中の問題解決の様子、問題解決後に振り返ることに関する認識等を尋ねた。最終年度に実施予定の課題調査および質問紙調査の予備調査にあたる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、学習者が問題解決後の振り返りとして教訓帰納方略を利用していたとしても、結果として引き出される教訓内容の質が低く、後続の問題解決の役に立たないものになっているという、方略利用のつまずきの検討とその解消に焦点を当てている。第一の目的は、学習者が正しい解法(解答)から問題解決に有効な情報を教訓として抽出できるようになることを目指した指導法の提案をすることである。なぜうまく教訓を引き出せないのかという学習者が抱えているつまずきの分析、どのような認知的活動を支援すれば問題解決の役に立つ教訓を引き出せるようになるのかという介入研究の方向性はこれまでの調査で明らかになっており、最終年度実施予定の研究(調査と実験)でより精緻化された知見が得られると考えている。 第二の目的は、本研究で明らかになった知見を、実践現場である学校の普段の授業で活用することを目指して、学校の教師に対する調査も行うことであったが、こちらは予定通りに進んでいない。所属している研究室は、普段から中学校や高校の教師と交流があるため、特別講座(学習法講座)という形で学習法を学ぶワークショップを生徒に実施し、先生方と協議した上で普段の授業でも学び方を意識した指導を取り入れ、普段のノートや課題への取り組み状況から生徒の変化を追跡しているが、これは実践的な取り組みであり、生徒の変化に影響を与えた教師側の要因を明らかにするための研究は実施できてはいないというのが現状である。
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Strategy for Future Research Activity |
【研究の遂行】 1.中高生を対象とした個別実験によって、問題解決に有効な教訓産出に必要な認知プロセスを詳細に検討する。正しい解法の意味的な理解と、自分の答案と正しい解法の比較という2つの認知的活動に着目し、方略利用中の認知プロセスおよび引き出される教訓内容の質への影響について検討する。昨年度実施した実践授業では、教訓帰納の教授に加えて、以上の2つの認知的活動を授業中に促すことで、正しい解法から後続の問題解決の役に立つ情報の抽出が促されることが示唆された。しかし本実践では2つの認知的活動を要因として区別できていないため、実施予定の実験では2つの認知的活動を区別し、介入群・統制群を設け、各認知的活動の有無が教訓内容の質に及ぼす影響を詳細に検討する。新型コロナ感染症の影響で中学校または高校での研究の実施が難しい場合は、大学生を対象とする予定である。 2.中学生を対象とした課題調査によって、問題解決後に引き出された教訓内容の質とその後の問題解決スキルの関連に関する検討を行う。同時 に新たに開発した質問紙調査も実施し、学習に対する信念や普段の学習活動が教訓内容の質に与える影響も検討する。 ※新型コロナ感染症の影響により、データ収集を6月現在延期している。 【研究の発信】昨年度の研究成果について、EARLI Metacognition SIG 2020(新型コロナ感染症の影響で来年度3月に延期予定)、日本教育工学会でポスター発表を行う。また、昨年度取得したデータに関して論文を執筆し、国内学術誌に投稿する。
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Research Products
(4 results)