2019 Fiscal Year Annual Research Report
1950年代前半における「子どもを守る」運動の射程
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18J22883
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山口 刀也 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 基地 / 生活綴方 / 平和教育 / 純潔教育 / 性暴力 / 売買春問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで、朝鮮戦争期の山口県岩国市において、「基地の子」と呼ばれた子どもたちの教育や福祉にたずさわってきた教師たちの活動を検討してきた。具体的には、市立川下中学校にて生活綴方を実践した恩田操、市立岩国小学校につとめながら「基地の子どもを守る」活動を展開した中原ゆき子の二人について、以下のことが解明された。 恩田は、子どもたちの綴方から、反基地と、それとは対照的に基地に依存せざるを得ないという論理のせめぎ合いのうちを生きる基地社会の仕組みを析出し、子どもたちに対しては対話の場を提供することで多角的な視野からその仕組みについての考えを深めることをうながすとともに、他方で自身らが陥りがちな冷戦的思考様式を剔抉しながら、基地の町における平和教育をすすめるにはどうしたらいいか究明しようとつとめていた。 中原は、基地が子どもたちに与える影響を調査するとともに、「純潔教育」を進めた。ただし、その場合の純潔教育とは、一般的なそれが事象の発生状況を問うことなく、問題を個人化し道徳性を高めることに終始したのとは対照的に、子どもたちの置かれた状況や環境それ自体の問題性を告発するとともに、男児による女児への性暴力を予防することを第一義的な目的とされていた。また、彼女は、当時、「風紀悪化」の原因とされていた売春女性の置かれた状況の理解につとめ、問題の根源が軍事性暴力や性の商品化にあることを理解した。こうして中原は「貞操」や「純潔」という規範からの逸脱を女性に帰責させるような一般的論調、あるいは売春女性とそうでない女性の間を分断する性の二重規範を相対化する地平へ至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで対象としてきた2名の教師について、いずれも一本ずつ成果を公にしており、作業の進捗は計画通りと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の方策の第一は、これまで蓄積していながらも、公にすることのできなかった成果の発表を行うことである。具体的には、恩田操の生活綴方実践、中原ゆき子の推進した女性運動について、前者を日本教育史研究会、後者を申請者もその運営に従事している共同研究会で発表する。第二の方策が史料調査である。これまでの調査によって、恩田、中原と並ぶ重要な存在として、市立愛宕小学校の校長をつとめた大岡昇が浮上してきた。彼について、さらなる史料の蒐集が求められている。そのため、第一課題の進行にめどがついていると予想される夏季休暇を利用して、史料調査におもむき、その成果を後期期間中にまとめる。最後に、これまでの成果を編みなおし、博士論文の完成に取り組む。
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Research Products
(1 results)