2019 Fiscal Year Annual Research Report
熱帯性タコ類におけるクロスモーダルな外界認知とイメージの形成
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18J23009
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
川島 菫 琉球大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 熱帯性タコ類 / 感覚統合認知 / クロスモーダル / 視覚情報 / 触覚情報 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,熱帯性タコ類を対象に「タコ類が視覚と触覚という複数の感覚をクロスモーダルに用いて外界を認識する」という仮説を行動学的に検証することを目的とする。目的達成のため3つの研究項目,1)クロスモーダルの機構の解明,2)クロスモーダルの発達過程の解明,3)クロスモーダルによる生息環境探査の解明を設け,令和1年度は,研究項目1と2に関わる以下の実験を行った。 「触覚―視覚間のクロスモーダル認知」:図形弁別を用いて,タコにおける触覚―視覚間の情報転移を検証した。触覚のみで弁別を学習した個体は,その後の視覚のみによる同一図形の弁別を触覚による学習時より少ない試行数で学習した。これは,タコにおいて触覚記憶が後の視覚記憶に影響を及ぼす,触覚―視覚間のクロスモーダル転移が起きていることを示唆する。一方,視覚のみで学習を行ったタコは学習に至らなかった。これは,タコの新規形状の把握に触覚情報が重要であるという先行研究と一致する。 「触覚情報―視覚情報への依存度」:タコの視覚・触覚情報の統合の有無,及び両感覚への依存度を検証した。自身の身体を視覚・触覚により多感覚的に認知する場合誘起されるラバーハンド錯覚をタコに適用するための試験を行った。さらに,タコの餌生物であるカニを模した模型を用いた実験を行った。タコは視覚・触覚情報ともにカニと一致する模型を最も高頻度で長く触った。これは、タコが餌生物を視覚・触覚の両感覚を統合して知覚することを示唆する。 「クロスモーダルの発達過程の解明」:タコにおける感覚認知様式の生得性について,タコ若齢個体の野外採集と,視覚・触覚情報ともに乏しい環境における飼育が可能であることを確認した。一定期間感覚情報の乏しい環境における飼育を経ても,若齢個体の行動に変化は見られなかったことから,タコの外界認知様式は感覚経験の影響を受けない可能性が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度実施した図形弁別やカニ模型を用いた実験から,タコ類において視覚と触覚という多感覚間で情報の転移や統合が起こっている可能性を示すことができた。これらの結果はタコ類におけるクロスモーダル外界認知の存在を示す上で極めて重要である。また,その他の項目についても,ラバーハンド錯覚実験に関わる装置の試作や,タコ若齢個体の採集,飼育方法の検討など,実験の遂行に不可欠な調査を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、研究項目1)クロスモーダルの機構の解明のうち「触覚情報―視覚情報への依存度」,研究項目2)クロスモーダルの発達過程の解明,研究項目3)クロスモーダルによる生息環境探査の解明,に関連した実験を以下のように実施する。 1)クロスモーダルの機構の解明「触覚情報―視覚情報への依存度」:ラバーハンド錯覚の原理を適用した実験を行う。自身の腕が見えない状態にしたタコに偽物の腕を提示し,本物の腕と同時に刺激する。この時,偽物の腕を自身の腕と錯覚するラバーハンド錯覚が誘起されるかを調べる。さらに錯覚中,視覚(偽物の腕)と触覚(実物の腕)に異なる刺激を与えた時,タコが何れに呼応した反応をタコが示すか観察する。 2)クロスモーダルの発達過程の解明:タコの若齢個体を野外採集し,多様な構造物のある「視覚情報・触覚情報の豊富な環境」と構造物が無く不透明な壁面で覆われた「視覚情報・触覚情報の貧しい環境」の2つの条件で飼育する。一定期間飼育後,摂餌や探査といった行動を観察することで,タコのクロスモーダルな外界認知の発達過程と感覚経験の影響を検証する。 3)クロスモーダルによる生息環境探査の解明:水槽に触覚刺激として凹凸のある構造物,壁面に視覚刺激として二次元画像,タコの巣,タコの餌場,を設置する。この水槽にタコを収容して探査行動を記録する。そして,触覚刺激または視覚刺激の配置を変化させ,探査行動が変化するか観察する。 以上の研究から得られた成果を,学会で順次,発表するとともに,迅速かつ積極的に論文を執筆し,国際誌に投稿する。
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