2018 Fiscal Year Annual Research Report
ポスト現象学と言語行為論に基づいたコミュニケーションロボットの倫理に関する研究
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18J23409
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
水上 拓哉 東京大学, 大学院学際情報学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | ロボット倫理学 / コミュニケーションロボット / 対話システム / ポスト現象学 / 言語行為論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ポスト現象学と言語行為論を中心的に参照しながら、コミュニケーションロボットという技術をどのような存在として考えるべきかを検討するものである。特に初年度では、ポスト現象学を用いた技術倫理の先行研究を渉猟しつつ、マイクロソフト社が開発した対話システム"Tay"が起こしたヘイトスピーチの問題を事例として、技術的人工物の発話の倫理について考察した。
初年度の研究では、上記の事例を考える上で、伝統的な倫理学における概念やアプローチをそのまま用いることの問題を指摘した。従来のロボット倫理学や人工知能倫理においては、考察対象の技術がいかなる道徳的行為者であるのかを重視することが多い。これは、Gunkelが指摘するように、そもそも倫理学が伝統的に行為者性を重視するからである。コミュニケーションロボットや対話システムが言語行為の遂行者たりえるかという問いそのものは哲学的に興味深いかもしれない。だが、上記の事例におけるシステムのもつ社会に与えた影響力を考えるためには、システムの発話がどのような行為であるのか(発話内行為レベルの考察)だけではなく、その発話によってユーザにどのような心理的影響が引き起こされるのか(発話媒介行為レベルの考察)についてもさらなる検討が求められる。この点については哲学若手研究者フォーラムおよび科学技術社会論学会にて口頭発表を行い、同フォーラム発行の『哲学の探求』に論文を投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コミュニケーションロボットの倫理を考える上でのポスト現象学および言語行為論の貢献については修士論文にて予備的に考察することができたため、この点において研究計画は進展しているといえる。また、その内容についても一部発展させたものを(査読のない)論文にしたり、口頭発表したりすることができた。しかしその一方で、その内容を査読付きの論文として発表できていないため、内容をブラッシュアップさせ投稿を急がなければならない。
研究計画では中心には据えていなかったが、これまでの研究の考察で示唆されたように、ユーザと心理的・社会的関係を構築するコミュニケーションロボットの倫理を考察する際には安楽椅子から立ち上がり、実際にロボットとユーザのインタラクションを観察することが必要である。次年度はこの点に重きを置いて研究を進めるつもりだが、そのためには会話分析をはじめ、インタラクションを分析するための理論的・実践的知識を滋養する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、初年度の内容で論文化できていない部分については論文化を目指す。具体的には、日本哲学会の『哲学の門』もしくは科学哲学会の『新進研究者Research Notes』への投稿を目指す。また、コミュニケーションロボットに対する感情移入についての考察は、虚構上のものに対する感情を考察する分析美学の先行研究が示唆的だと考えており、この点について検討したものを論文として発表することを目標とする。
会話分析については特別共同利用研究員として参加している国立情報学研究所でのデータセッションに参加することで実際の研究デザインについて学ぶとともに、千葉大学大学院の基礎授業にも参加し、会話分析の体系的な知識を身に着け、本研究を進めるにあたって会話分析がもつ可能性と限界について考察を進めたい。
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