2019 Fiscal Year Annual Research Report
森林のガス交換を制御する樹体内の水分生理メカニズムの解明
Project/Area Number |
18J40014
|
Research Institution | Kyoto University |
Research Fellow |
鎌倉 真依 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(RPD)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
Keywords | 光合成速度 / 蒸散速度 / 樹液流速度 / 通水 / 貯留 / 水ポテンシャル |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、昨年度の結果を基に、滋賀県大津市の桐生水文試験地において、樹高が同程度で胸高直径の異なる3本のヒノキ成木の貯留・通水特性の比較を行った。各個体の幹下部(1 m)および幹上部(20 m)にサイクロメータおよび樹液流センサーを設置し、季節を通じて樹体の水ポテンシャルおよび樹液流速度を測定した。昨年度得られた結果と同様に、幹上部の水ポテンシャルおよび樹液流速度は、朝方に幹下部に先駆けて変化し始め、夕方は幹下部より早く停止したため、朝方の蒸散開始時は、葉や幹に貯留した水を利用して蒸散を行っていたと考えられる。また、胸高直径の大きな個体の方が、より多くの樹体内貯留水を利用している傾向が見られた。 また、北アルプスに位置する乗鞍岳の標高2,500 mに優占する樹木4種(ナナカマド、ダケカンバ、オオシラビソ、ハイマツ)の光合成および水利用特性についても、昨年度に引き続き調査を行った。今年度は、各樹種の葉のフェノロジー、個葉光合成および水ポテンシャルの日変化、個体全体の通水特性、地上部の純一次生産量について調べた。これらの測定から、高木限界で生育する4樹種には異なる光合成および水利用特性が見られた。低木の落葉広葉樹であるナナカマドは、気孔制御や葉の浸透調節により水利用効率を高めて光合成・蒸散を維持しており、幹生長量は低いがリター生産量が高かった。高木の落葉広葉樹であるダケカンバは、土壌―葉の通水コンダクタンスが大きいことで一日を通して高い蒸散速度を維持しており、高い幹生長量・リター生産量を示した。高木の常緑針葉樹であるオオシラビソは、土壌―葉の通水コンダクタンスと貯留量が大きいことで水利用効率を高めており、幹生長量が4樹種の中でもっとも高かった。矮性低木の常緑針葉樹であるハイマツは、失水に強く、貯水性の高い葉を持つことで脱水回避しており、常に安定した水利用効率を維持する通水特性を示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、ヒノキ成木の貯留・通水特性について、ヒノキ林流域において新しい技術であるサイクロメータを用いた幹の水ポテンシャル測定と樹液流測定を組み合わせ、蒸散への貯留水の寄与を観測から明らかにしている。本結果について投稿論文を準備中である。 また、高木限界で生育する樹木の生理生態学的特性について、乗鞍岳において4樹種の葉のフェノロジー、個葉光合成および水ポテンシャルの日変化、個体全体の通水特性、地上部の純一次生産量についての調査をおこなった。これらの測定から、高木限界で生育する4樹種の異なる光合成および水利用特性を明らかにした。本結果についても論文化に取り掛かっており、おおむね順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
桐生水文試験地におけるヒノキの通水特性については、これまでに得られた観測結果を基に、樹体各部の水分特性曲線を示すことにより、ヒノキ個体の通水・貯留特性をモデル化したいと考えている。これにより、ヒノキ樹体内貯留水の蒸散への寄与度の短期的・長期的変動を明らかにすることができる。 北アルプスの乗鞍岳においては、標高2,500mの高木限界で明らかにした樹木の生理生態学的特性が、標高傾度に沿ってどのように変化するのかを明らかにするために、標高1,600~3,000mの中で3か所ほどプロットを設け、各地点における主要構成樹種を対象に樹木の生理生態学的特性を調べる。
|
Research Products
(9 results)